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一般2013年09月02日 日中平和友好条約締結35周年に思う 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:夏目武志

1 1978年8月に日中平和友好条約が締結されてから本年8月12日で35周年となった。残念なことに日中関係は72年の国交正常化以来最悪などとも言われている。上記条約の基礎となった1972年の日中共同声明には「日中両国間には社会制度の相違があるにもかかわらず、両国は、平和友好関係を樹立すべきであり、また、樹立することが可能である。両国間の国交を正常化し、相互に善隣友好関係を発展させることは、両国国民の利益に合致するところであり、また、アジアにおける緊張緩和と世界の平和に貢献するものである。」との文言が謳われている。そこには、自分とは異なる、異質な他者との相違をお互いに認め合い、受け容れて、友好関係を築いていこうという精神が掲げられていると思う。私はこうした前向きで度量の広い考え方がとても好きだ。

2 人間は元来自分勝手なので、誰しもついつい自分目線で物事を見てしまいがちだ。そして、相手のことをあまりよく知りもしないまま、断片的な情報であたかもそれが物事の全体であるかのように思い込み、限られた情報や縛られた価値観のみに基づいてお互いに自分が正しいと決めつけ、怒り、衝突をする。世の中で起こる人間同士のトラブルは、それが国家間のものであれ、身近な職場の中での問題や男女のいざこざであれ、多くの場合、根本的な原因は似たようなものではないかと思う。
 そして、考え方や価値観は人それぞれだから、社会の中でトラブルや課題は常につきものだ。もっとも、同じようなトラブルや課題に直面しても、それをどう受け止め、どのように向き合っていくかは人によって様々だ。

3 日本も中国もそれぞれ異なる多くの素晴らしい文化や特質を持っている。しかし、そうしたプラスの側面を知らないまま、一部のネガティブな現象や情報にばかり目を奪われ、誤解に基づいてそれぞれ嫌悪感を抱いているとすれば、それはとても惜しいことだ。まずは相手のことを知る、ということがとても大切だと思う。人は相手のことを知らないと冷淡になりやすい。それは相手を自分と異質なものと捉え、自分と切り離して見てしまうからだ。逆に、共感できる部分や背景、これまで見えていなかった意外な一面を見出すことで相手に対する気持ちは大きく変わるものだ。弁護士が日頃、刑事弁護で被告人の情状を主張・立証する意義もこうした観点から位置づけることができるものであるし、あらゆる社会の中でコミュニケーションの重要性が説かれるのも相手を知ることの大切さゆえであろう。

4 日本人と中国人は顔が似ているために、相手が自分と同じだという錯覚を起こしやすいが、実際には非常に大きく異なっている点も多い。このことも日中間で軋轢が生じやすい一つの理由かもしれない。つまり、本当はそうではないのに、相手も自分と同じはずだとつい錯覚し、自分勝手な幻想や期待を抱き、それが思い通りにならないことでイライラするのだ。始めから相手が自分とは違っているということを知り、それを受け容れていれば、同じ出来事に遭遇しても、無理な期待をすることもなく、当然のことという受け止め方になるので、より包容力のある対応が可能となるはずだ。ここで重要なことは、相手が全く同じ行動を取ったとしても、自分の意識や考え方一つで、相手との関係をより良好なものにしていくチャンスが広がるということであり、私たちは自らそのような選択をすることができる、ということである。
 自分とは違うことを受け容れることはなかなか難しく、意識的な努力や鍛錬を要することではあるが、ありのままの相手を認め、受け容れるということは、ありのままの自分を認め、尊重するということにもつながっていくことだと思う。こうして一人一人をかけがえのない存在として存在価値を認め、個性を輝かせていく考え方は、憲法13条の個人の尊重の考え方そのものだと思っている。
 そもそも、人も、国家も、民族も、文化も、それぞれ違っているからこそ面白いのであって、みんな違ってみんないいのだ。

5 これからの日中関係において、それぞれが自立した関係の中で、お互いの異なる良さや持ち味を発揮し合って連帯し、当てにし、される関係を作っていくことができれば、きっと新たに素晴らしい道、時代を拓いていくことができるのではないかと思う。
 課題やトラブルは、いつの時代でも、あらゆる人間社会に付きものである。それを同じベクトルで克服する経験を積み重ねていくことができれば、課題やトラブルは、かえって人と人との関係や絆をより強固なものにしていく機会にもなしうる、と私は信じている。

(2013年8月執筆)

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