一般2013年02月01日 「ありがとう」を頻繁に口にすることの効果 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:夏目武志
1 日本と中国とではコミュニケーションの取り方にいろいろな違いがあるが、私が最初に最も驚きを感じたのが「ありがとう」という言葉の使い方の違いについてだ。
私は日本社会の中で感謝の心を持つことの大切さを教えられて育ってきた。「良い事があればおかげさま」という心を持ち、当たり前という奢った心を持たず、常に自分以外の周りの支えやご縁に対して謙虚に感謝する気持ちを持ちなさい、と。
私は今でもこうした心の持ち方はとても大切なことだと思っているし、自分の子育てでも「『ありがとう。』をきちんと言いなさい。」というのは我が家の教育における基本中の基本だ。うちの子どもが外に出たときに「ありがとう。」とお礼を口にすると、大抵の大人は「あら、ちゃんと『ありがとう』が言えてお利口さんねぇ。」などと言って褒めてくれるし、親も良い気分に浸ることができる。
日本人は総じて人から「ありがとう」と言われるのが好きということもいえると思う。音楽グループである「いきものがかり」の「ありがとう」という曲を聴けば、みんな何となく心がジーンとくるのだ。
逆に、職業柄、数多くの離婚案件を目にする中でも、夫婦間でいつしか感謝の気持ちが薄れ、「当たり前」という気持ちが心の中を占めてくることが夫婦関係にとって一つのリスキーな兆候となりうることを、経験的に実感している。
だから、「ありがとう」という感謝の言葉を素直に口にすることは良いことだし、それは普遍的なことに違いないと信じていた。
2 ところが、この考え方を中国人の方とのお付合いの場面に持ち込むのには少々注意がいるようなのだ。
私が親しくさせていただいたある中国人の方が、中国では親しい間柄では「ありがとう」という言葉はあまり口にしないのだと教えてくれた。いわく、中国人の感覚では、親族や親しい友人同士が助け合うのは「当たり前」のことであって、「ありがとう」と何度も言われたら、距離を取られているように感じられ、むしろよそよそしく感じてしまうのだという。だから、親しいと思っている相手から「ありがとう」を連発されたら「言わないでよ。」という反応になるというのだ。
なるほど。そんな考え方もあるのか。「ありがとう」を言い合うまでもなく分かり合えているという互いの絶対的な信頼感。それまでの自分の常識が覆され、新鮮な衝撃を覚えたのと同時に、中国人のそんな考え方、あるいは人間関係観もいいな、と思った。
それ以来、中国人の方から親切を受けたときに思わず「謝謝」が口をついてしまいそうなときに、場面によってはぐっとこらえるよう少し努力しているのだ。心の中で、あなたと私との間では「不用謝」ですよね、と思いながら。
「オレとお前の間柄じゃないか。『ありがとう』なんて水臭い。」そんな関係をたくさん作っていくことができたらいいな、と思う。
(2013年1月執筆)
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