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一般2018年04月02日 中国会社法「司法解釈(4)」の要点解説 中国律師(弁護士)が見た日系企業 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:陳偉雄

 中国最高人民法院は、「中華人民共和国会社法」を正確に適用するため、人民法院における審判の実情を踏まえ、2017年8月25日、「中華人民共和国会社法の適用にかかる若干問題に関する最高人民法院の規定(4)」(以下、「司法解釈(4)」)(注1) を公布し、同年9月1日より実施しました。司法解釈(4)は今後、会社決議の効力、株主の知る権利、利益配当請求権、優先購入権および株主代表訴訟などにおける審理根拠として、株主権利保護および会社管理の目的を実現していくことが予想されます。本稿では、会社決議の効力、株主の知る権利、利益配当請求権、優先購入権および株主代表訴訟に関する規定をそれぞれ紹介します。


1.会社決議の効力瑕疵訴訟制度の改善

 実務上、株主会、株主総会または董事会などの会議を開催し、会議での決議により会社の経営事項を決定することは会社経営の主な手段であると思われます。よって、会社決議の効力に関する争議は、会社管理に関する紛争の重要な構成部分です。
 
 司法解釈(4)は3つの点から会社決議の効力に関する訴訟制度を明確化しました。

 (1)決議不成立の訴訟確定
 
 「会社法」第22条には、決議無効および決議撤回に関する訴訟の受理が規定されていますが、すでに成立している決議に対する規定であり、決議不成立の確認を請求する訴訟は明確に規定されていません。また、司法解釈(4)第5条では決議不成立に関する事由を規定しており、不成立決議は法的拘束力を有さないことを明確にしました。
 
 (2)決議効力訴訟の原告の明確化

 司法解釈(4)には、会社決議の効力に関する訴訟を提起することができる原告を明確に規定しています。具体的には、会社決議の無効または不成立を請求して提訴する場合、その原告は、会社の株主、董事、監事などの株主会または株主総会、董事会の決議内容に直接の利害関係を持つものでなければなりません。また、会社決議撤回を請求する原告は、訴訟を提起する時点で会社の株主であることなどの身分を裁判所に明示しなければなりません。

 (3)会社決議が無効と認定される、または会社決議が撤回される場合の対外効力の確定

 司法解釈(4)第6条により、株主会または株主総会、董事会の決議は、人民法院が無効とし、または撤回する旨判決した場合、会社が当該決議に基づき善意の相手と形成する民事法律関係は、影響を受けません。つまり、会社決議は社内での効力と社外での効力に分けて確定するという原則を適用します。

2.株主の知る権利の保護

 会社法第33条により、株主は会社定款、決議などの文書を閲覧または複製する権利、すなわち知る権利を有しています。株主の知る権利は、株主の有する権利において基礎的な権利であり、法により厳格に保護すべきものです。司法解釈(4)では、株主が会社法に規定されている知る権利が侵害されたと主張する場合、人民法院にて訴訟を提起することができると規定されています。また、人民法院が株主による会社の特定文書に関する閲覧または複製の請求が支持されるべきと判断した場合、判決文により会社特定文書を閲覧、複製時間、場所および閲覧・複製可能な特定書類の詳明細を明確化することになります。
 
 また、司法解釈(4)には、会社は定款、株主協議などの方法にて株主の知る権利を剥奪してはならないと規定されています。人民法院は、会社が定款、株主協議の約定に基づき、株主の会社文書の閲覧または複製権利を制限する行為を支持しません。
 
 さらに、司法解釈(4)は、株主の知る権利を保護するため、株主が人民法院の判決を持って会社の文書を閲覧、複製する際、当該株主が現場にいることを前提として、会計士、弁護士などの秘密保持義務を負う仲介者が補助することができるとしています。会社が会社法第33条あるいは第97条の所定会社文書を法により作成、保存していない場合、株主が訴訟を提起し、会社の董事、高級管理人員が民事賠償責任を負うよう請求する場合、人民法院はこれを支持しなければなりません。

3.株主の利益配当請求権の行使

 司法解釈(4)では、株主による利益配当請求権の行使について、訴訟当事者および訴訟提出資料を明確化しました。まずは、訴訟当事者については、株主が利益配当訴訟を提起する場合、会社を被告に列挙しなければなりません。また、利益配当の根拠として、株主が具体的な配当案を明記した株主会または株主総会の有効な決議を提出しなければなりません。

4.株主の優先購入権の行使

 会社法により、株主が会社の株主以外の者に持分譲渡する際、会社のそのほかの株主も同等な条件での持分優先購入権を有しています。司法解釈(4)では、この株主の優先購入権について、同等な条件、損害救済などに関する問題を明確化しました。同等な条件を確定する際、譲渡する持分の数量、価格、支払方法および期限などの要素を考慮しなければなりません。
 
 株主優先購入権の損害救済について、司法解釈(4)では、株主が持分譲渡する際、そのほかの株主の意見を問わない、または、詐欺などの手段により、そのほかの株主の優先購入権を実際に侵害した場合、そのほかの株主は実際の持分譲渡の同等条件によって譲渡した持分を購入することを要求する権利を有しています。

5.株主代表訴訟制度の改善

 会社法第151条第2項、第3項は株主代表訴訟を規定していますが、株主代表訴訟における訴訟の参加者、勝訴による利益処分、訴訟費用の負担などの問題について、具体的な操作規則は明確にしていません。司法解釈(4)は前述の3つの問題を明確にしました。すなわち、訴訟参加者について、会社法の規定により、株主が直接、会社の董事、監事、高級管理人員などに対する訴訟を提起する場合、会社が第三者として訴訟に参与しなければなりません。原告である株主側勝訴による利益処分について、勝訴による利益は会社利益であり、株主は被告が直接民事責任を負うことを請求してはならないとしています。訴訟費用について、株主勝訴後、訴訟のため発生した合理的な費用を会社に請求する場合、人民法院はこれを支持しなければなりません。
 
 司法解釈(4)の実施により、これら会社法による規定されている株主の権利への保護がさらに明確化され、株主権利の保護および会社経営に良い影響を及ぼすことが期待されています。

(2018年3月執筆)


注1. 最高法院公司法司法解释(注2)(四)

注2. のごめへんに、つくりが又の下にキが入ります


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