カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

一般2015年02月09日 再び動き出した中国の環境公益訴訟 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:中島宏治

 日本においては、環境問題が発生したときに、具体的権利侵害を受けた者だけが原告となって加害企業相手に裁判をすることになります。これに対して、社会の共同利益が侵害を受けた場合に、共同利益を守るために法律に規定された特定の機関・団体が裁判所に訴訟を提起することが中国では認められています。これを「公益訴訟」といいます。
 中国において深刻な環境問題の解決のために、環境公益訴訟をめぐる議論がこの間活発に行われ、2015年1月1日に施行された改正環境保護法において、一定の要件を満たす環境NGOにも原告となりうる道が開けました。現在、多数の環境公益訴訟が準備されつつあると聞いています。
 今回は、この中国環境公益訴訟の動きと日系企業への影響についてご紹介します。

■ 民事訴訟法改正による「公益訴訟」の新設
 2012年8月31日、中華人民共和国民事訴訟法が改正され、2013年1月1日から施行されました。
 その中で注目されたのが、「公益訴訟」の条文が追加されたことです。中国において、環境汚染、食品の衛生と安全、消費者権益の侵害のような不特定多数の一般民衆あるいは社会全体の利益を害するような事件が頻発しました。そのような背景のもと、改正民事訴訟法においては、55条に「環境を汚染すること、または多くの消費者の適法な権益を侵害する等の社会公共の利益を損なう行為について、法律で定める機関及び関連組織は、人民法院(裁判所)に訴訟を提起することができる」という「公益訴訟」の規定をおきました。
 この規定は原則的な規定ですので、具体的にどのような機関・団体が公益訴訟を提起する資格を持っているのか、NGOは資格を持つのか等、様々な議論が行われてきました。
 このうち、環境公益訴訟については、環境保護法の改正草案が何度か議論され、いったんは原告の資格を検察官と政府系のNGOに限定しようとする動きもありました。そのため、せっかく環境公益訴訟の制度が認められたのに、これでは実効性がないとして、多くの環境NGOが資格拡大を訴えていました。

■ 環境保護法改正による資格拡大
 2014年4月24日、中華人民共和国環境保護法が改正され、2015年1月1日から施行されました。
 同法58条において、次の2つの条件を満たす社会組織は、人民法院(裁判所)訴訟を提起できると規定されました。
 〈1〉 区を設ける市レベル以上の人民市府民政部門で法律に基づき登記していること
 〈2〉 環境保護公益活動に連続5年以上専門的に従事し、かつ、違法記録のないこと
 これにより、登記が必要であるとはいえ、多くの環境NGOに環境公益訴訟の門戸が広がったと評価することができます。
 更に、2015年1月6日に公布され、即日施行された最高人民法院(最高裁判所)の司法解釈(環境民事公益訴訟案件審理の適用法律にかかる若干問題に関する解釈)に、上記2要件の解釈や具体的な手続きが規定されました。

■ 日系企業に対する影響
 中国に製造業の工場を持つ日系企業の生産の過程においては、多少の汚染物質を排出することもあり、これらの排出処理を誤ると、環境汚染を引き起こしたとして問題視される可能性があります。
 環境公益訴訟の制度が固まったことにより、具体的な被害者が確定していなくても、社会の共同利益に損害を与えたとして、公益訴訟を提起されることのリスクが高まっていると考えるべきでしょう。
 これまで以上に汚染物質の排出処理の管理に力を入れると共に、自社の排出処理が十分であることを立証して責任主体ではないことを明らかにする証拠づくりを意識する必要があります。
 すでに多くの環境公益訴訟が準備されていると聞いています。今後の環境公益訴訟の動きに注目しましょう。

(2015年2月執筆)

一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 全115記事

  1. 中国所在の不動産を巡る紛争と裁判管轄の問題
  2. 「老後は旅先で」~シニアの新しい生き方~
  3. 中国に出資しようとする外資企業に春が来た
  4. 「企業国外投資管理弁法」の概要
  5. 楽しさと便利さが、庶民の生活を作る。
  6. 中国会社法「司法解釈(4)」の要点解説
  7. 日本産業考察活動メモ
  8. 長江文明・インダス文明、再来の始まりを予感
  9. 中国国務院より「外資誘致20条の措置」が公布されました
  10. 中国の対日投資現状とトレンド(2)~中国の対日投資の論理とトレンド~
  11. 観光気分の危機管理
  12. 訴訟委任状に公証人の認証が必要か?
  13. 『外商投資企業設立及び変更届出管理暫定弁法』の解説
  14. 婚活は慎重に!とある中国人女性と日本人男性の事例
  15. 新旧<適格海外機関投資家国内証券投資の外国為替管理規定>の比較
  16. 中国では、今年から営業税から増値税に切り換え課税するようになりました。
  17. 土地使用権の期限切れ
  18. 過度な中国経済悲観論について思うこと
  19. 『中華人民共和国広告法(2015年改正)』の施行による外資企業への影響(後編)
  20. 203高地への道
  21. 中国大陸における債権回収事件(後編)
  22. 中国大陸における債権回収事件(前編)
  23. 訪日観光は平和の保障
  24. 大連事務所15周年&新首席代表披露パーティーを行いました
  25. 再び動き出した中国の環境公益訴訟
  26. 「国家憲法の日」の制定
  27. 中国独占禁止法
  28. 道路の渡り方にみる日中の比較
  29. 日本の弁護士と中国の律師がともに講師となってセミナー
  30. 日中平和友好条約締結35周年に思う
  31. 中国におけるネットビジネス事情
  32. 敦煌莫高窟観光の人数制限と完全予約制の実施
  33. 両国の震災支援を両国民の友好につなげたい
  34. 公共交通機関のサービス体制
  35. 「ありがとう」を頻繁に口にすることの効果
  36. 久しぶりの上海は穏やかだ
  37. 事業再編の意外な落とし穴
  38. 強く望まれる独禁法制の東アジア圏協力協定化
  39. いまこそ日本企業家の心意気を持って
  40. iPadに見る中国の商標権事情
  41. 人民元と円との直接取引がスタート
  42. 中・韓のFTA(自由貿易協定)交渉開始と日本
  43. 固定観念を打破し、異質を結びあわす閃きと気概
  44. 若い世代を引きつける京劇
  45. 大都市は交通インフラが課題だ!
  46. 杭州市政府の若手職員の心意気
  47. 13億4000万人を養う中国の国家戦略
  48. 「命の安全」を考える。
  49. 大連で労働法セミナーを開催しました
  50. 中国でも「禁煙」規定が発効
  51. 中国における震災報道から思う
  52. IT通信手段は、不可欠だ。
  53. 日本人は計画的?中国人は行きあたりばったり?
  54. 広州・北京に見るストライキ事情
  55. 商業賄賂で処罰
  56. 大連事務所は開設10周年を迎えました!
  57. 顔が見える交流
  58. 日本は人治、中国は法治?!
  59. 日本の公証人制度
  60. 充電スタンド建設の加速
  61. 上海の成熟した喧噪と法意識の違い
  62. 中国における日本人死刑執行の重み
  63. 中国の富裕層は日本経済の「救世主」か
  64. 日本に追いつき追い越せ/パートII
  65. 国際交流を望む中国研究者にとって日本は遠い国だ
  66. 「文化産業振興計画」の採択
  67. 国慶節に思う
  68. IC身分証明と在日外国人取締強化
  69. 「日本人は・・・・・」「中国人は・・・・・・・」
  70. 中国の携帯電話産業
  71. メラミン混入粉ミルク事件
  72. 大連市の公証人役場
  73. 東北アジア開発の動きと長春の律師
  74. 循環型経済促進法の制定
  75. 北京オリンピックと私たち
  76. 四川大震災に想う
  77. 日・中企業間の契約交渉の実例
  78. 東アジア共同体
  79. レジ袋の有料化
  80. 通訳の質について
  81. 「中国餃子バッシング」に思う
  82. 中国の休日
  83. インドを見てから、あらためて中国を見る
  84. 日中韓の国境は障害を乗り越え、確実に近くなっている。
  85. 北京市の自転車レンタル事業から中国の環境政策を見る
  86. 福田首相と日中友好
  87. 上海の空、東京の空 四日市公害裁判提訴(1967年)から40年後の今に想う
  88. 物権法の制定過程
  89. 司法より行政に権力がある
  90. 中国の『走出去』戦略を読む
  91. 中国の環境問題
  92. 中国のオーケストラ
  93. 春節
  94. 「いじめ」は共通語だ!
  95. 中国を見る眼
  96. 最高人民法院を訪問しました
  97. 機内食のコップ あっという間の進歩
  98. 冷静な眼と暖かい心
  99. 自主的な総合的力量を備える
  100. 宴席は丸か四角か
  101. 「十一五」規画始動!
  102. 依頼人の人権擁護
  103. 身の安全
  104. 中国で「勤勉さ」を学ぶ
  105. 203高地や旅順口などの戦跡を訪れて思う
  106. 「ソウルで味わった韓流の逞しさ」
  107. 中国と日本の立法・行政・司法
  108. くれぐれも御用心
  109. 海外旅行は、法リスクの宝庫だ。
  110. 互いの理解
  111. 信頼関係の形成に向けて
  112. 中国憲法における「改革・開放」路線
  113. 苦情処理センターの効用
  114. 信頼できる中国人パートナーを得る
  115. 外国への進出と契約
  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索