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その他2014年10月21日 道路の渡り方にみる日中の比較 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:夏目武志

1 中国では信号や横断歩道のないところでも人がどんどん道を渡る。たとえば、私の大連事務所のある中山広場は片側4車線の広い環状式道路になっており、日中は自動車の交通量の多いところであるが、信号機はない。車の流れが途切れることは滅多にないため、道路を渡るときは、一車線ずつ渡っていく。手前の第一車線の車が途切れたら、まず一車線だけ進み、いったんそこで立ち止まる。第一車線と第二車線の間で自分の前後を車が通り過ぎていくのをやり過ごしながら、第二車線の車が途切れたら第二車線を渡る。そんな方式で道路を渡るのが、ごく一般的なやり方だ。
 このような道路の渡り方は日本ではおよそ考えられない方法であるため、最初に中国に来たときは、何という危険な道の渡り方かと思っていた。しかし、現実問題として、そのような方法を敢行しなければいつまでたっても道路を渡ることができない。恐怖を覚えながらも、郷に入れば郷に従えで、私はこのような中国式横断方式をマスターし、今ではごく普通に危なげなく道を渡ることができるようになった。

2 そうした中でいくつか感じたことがあった。
 その一つは、当初危険極まりないと思っていた中国式横断方法が、実は必ずしもハイリスクとまではいえないのではないか、ということである。というのも、中国では常時どこでも人が横断をしてくることが常態化しているため、ドライバーは常に人間が横断してくるかもしれないという前提で、ある意味よく注意して見ながら運転をしているように思われる。実際、前述の一車線ずつの横断方式を行う際、道路の真ん中で立ち尽くしていても、私の前を通り過ぎる車の運転者と私との間では、私がどのような行動を取るかという予測についての共有が十分に成立していることを感じることができる。日本では、互いの信頼のもとに、道路には人は出てこないという油断がドライバーにあるので、いざ人が飛び出してきたときへの対応力という点では中国より劣るのではないか。日本には信頼に由来する油断があり、中国には不信に基づく警戒がある、という皮肉な図式である。少なくとも、私個人についていえば、中国で道を歩いているときは何があるか分からないという警戒心を常に持って外出しているので、中国の道路でも十分身の安全を確保する術はすでに体得できていると思う。
 二つ目は、合理性という観点での日本方式に対する疑問だ。日本では、多くの人が赤信号を守り、明らかに車が来ないときでも横断をしない。こうした多くの日本人の几帳面な順法精神は日本人の一つの美点に違いないし、これにより秩序が守られ、安全が確保されているというメリットは否定しない。しかし、一方では明らかな無駄がそこにあるという側面も否めない。これは私が中国の随時横断方式に慣れてきて、日本方式と比較したときの合理性を実際に体感したことによる実感である。
 三つ目は、こうした相違が生じる原因についての気づきだ。日本では、多くの物事に関し、ぼんやりと受け身で機会を待っていても、さほど不便を感じない程度に機会を与えられる環境(ある種の守られた環境)があるが、中国はそうではない。行けるときに自ら決断して行動を起こさなければ、いつまでたっても行けないのだ。守られていない環境ゆえに、中国人には変化に即応する決断力やスピード感、逞しさがあり、こうした面で日本人は見習うべき点があると常々感じている。

3 以上のような気づきのもと、次のような考察をもって本稿のまとめとしたい。
 第一に、条件や環境によって、どのような方式が最適であるかということは必ずしも一様ではないということ。たとえば、交通安全の実現という目的は日中において共通であるが、それを実現するための手段は様々ということだ。多くの日本人が初めて中国式横断方法を目にしたとき、危険で劣ったやり方だと感じるはずだ。しかし、それは日本の常識を物差しにした一面的な見方にすぎないかもしれない。これは、法律や社会制度についても同様のことが言える。私たちは、互いに異なる文化や環境、社会的背景をよく理解したうえで、物事の本質を見据えて事に当たることが大切ではないかと思う。
 第二は、変化に対しての対応力という面での日本に対する危機感。現在は、非連続の時代とも言われる変化の激しい世の中だ。過去の延長線上に未来を描くことが難しい。今回は道路の渡り方という事象を取り上げて日中の比較を行ったが、これをビジネスに引き直して考えてみたらどうであろう。私は、日本人が守られた環境に身を置いているがゆえに、過去の安定の上に安穏とあぐらをかいているような状況があるのではないかという危惧感を感じている。
 現実に身の回りで発生している情報に自らしっかりとアンテナを張って、状況把握・認識をしっかりする。そのうえで、今までのやり方でだめだと思ったらやり方を変える。チャンスが到来したら時機を逃さずトライする。自分の中でしっかりとした価値観や哲学を持ち、自分の頭で考えて、行動する。
 そうしたことが、今後ますます大切になってくるのではないかと考えている。

(2014年10月執筆)

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