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一般2009年09月01日 IC身分証明と在日外国人取締強化 日本人弁護士が見た中国) 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗

1 刑事の張り込み

 個人観光の解禁は不法滞在者を増やしかねないとの懸念もあったが、2009年7月1日から中国人の富裕層である上海人・北京人・広州人には観光ビザ(有効期間15日)が個人発給され、秋葉原での買い物と温泉地巡りなど気楽な観光旅行が許されるようになった。
 他方、2009年7月15日改正入管難民法が公布され、不法滞在(オーバーステイ)外国人への取り締まりが厳しくなっている。
 混雑する朝の通勤時間帯に地下鉄千代田線と山手線および日暮里・舎人ライナーの交点である西日暮里駅構内で、小太り、坊主頭の一見すると労務者と見間違う中堅の50代の刑事と白いワイシャツで鞄を持ち一見してサラリーマン風の若い20代の刑事がチームを組んでいた。我々には日本人との区別はつかないが、彼らは分かるのだろう、次々目についたアジア系外国人に職務質問をして外国人登録証の呈示を求めている現場に遭遇した。逆に刑事か不審をもつ外国人には警察手帳を提示して、身分を明らかにし手際よく処理している。
 確かに、西日暮里駅は日暮里・舎人ライナーで町屋へつながる下町である。安い木賃アパートもありオーバーステイの外国人取り締まりがやり易いのだろう。

2 IC身分証明の流れ

 日本人は街を歩くとき何らの身分証明書を持たない。なぜなら観光で来日した外国人はパスポートの携帯(入管難民法23条:註1)を、日本に90日以上在留する外国人は外国人登録証明書の携帯義務(外国人登録法)があるが、日本人には全国民共通かつ法的義務としての身分証明書の制度はないからだ。
 もちろん市役所・銀行やお店で身分を証明しなければならないときもある。その時、会社発行の身分証明や住民基本台帳カードより、自動車運転免許証は便利だ。顔写真付きの公文書として本人確認が容易で、かつ所持者も多いので一般的な本人確認証明書として広く利用されている。しかも2007年から、全国に「ICカード運転免許証(ICチップ:半導体集積回路を内蔵した自動車運転免許証)」化がすすみ、本籍記載はICチップ内のデータとなった。
 在留外国人に関しては、上記入管難民法の改正により3年の猶予期間をおいて、2012年7月14日新たな在留管理制度に移行し、外国人登録制度は廃止される予定だ。その際、法務省は、中長期滞在者についてはICチップ入りの在留カードを新たに発行交付し、IC在留カードを携帯することを義務づける。
 現在は、合法的な住民ではないオーバーステイの在日外国人についても、住民登録的な外国人登録が可能で、各市町村での健康保険・福祉サービスも受けられた。しかし、新たな在留管理制度のもとでは、住民基本台帳法の適用除外とされ、各種サービスも登録制度の枠外となる。

3 外国人から始まるコンピュータ管理社会の到来

 現代日本は外国への往来が自由な国際社会となり、グーグルの検索機能を例に挙げるまでもなく、コンピューター・ネット社会は、インターネットを通じた情報収集・商品購入など着実に日々の生活を便利にしている。それとともに多数のクレジットカードの顧客情報流出のトラブルなど利便性の裏腹に日本国民も外国人も一括した情報管理安全システムの重要性はますます問われる時代になった。
 
 法務省入国管理局の2009年7月時点のホームページ(註2)には『法務省入国管理局では、「ルールを守って国際化」を合い言葉に出入国管理行政を通じて日本と世界を結び、人々の国際的な交流の円滑化を図るとともに、我が国にとって好ましくない外国人を強制的に国外に退去させることにより、健全な日本社会の発展に寄与しています。』と表示されている。
 まさに、オーバーステイの外国人への取り締まりは強化された。
 よく知られた取り締まり現場は、各国の大使館・領事館前の歩道である。例えば、地下鉄日比谷線の六本木駅を出て、雨天のため地上に上がらず、六本木アークヒルズの地下を抜けて、中国領事館に手続きをとるために行く道すがらで、職務質問を受けオーバーステイの中国人が逮捕される。
 以前、東京地裁・東京高裁・最高裁へ裁決取消・退去強制令書取消請求の行政訴訟を担当したオーバーステイのタイ人の場合も、同様であった。
 彼は婚姻届けを出すべく夫婦でタイ大使館に行く直前に歩道に張り込んでいた警察官から職務質問を受け、外国人登録証不携帯、パスポートから不法滞在の事実が明らかとなり現行犯逮捕された。

 自由と正義を標榜する弁護士(註3)は、オーバーステイの在日外国人へのコンピュータ管理強化が、日本国民のコンピュータ管理強化への将来の芽だという視点を常に忘れてはならない。


註1:出入国管理及び難民認定法第23条(旅券又は許可書の携帯及び呈示)
1 本邦に在留する外国人は、常に旅券又は仮上陸許可書、乗員上陸許可書、緊急上陸許可書、遭難による上陸許可書、一時庇護許可書若しくは仮滞在許可書を携帯していなければならない。ただし、外国人登録法 (昭和27年法律第125号)による外国人登録証明書を携帯する場合は、この限りでない。
2 前項の外国人は、入国審査官、入国警備官、警察官、海上保安官その他法務省令で定める国又は地方公共団体の職員が、その職務の執行に当り、同項の旅券又は許可書の呈示を求めたときは、これを呈示しなければならない。
3、4(略)

註2:なお、法務省入国管理局の同ホームページは『「出頭申告のご案内」として「退去強制手続の中で、申出の内容を審査した結果、法務大臣から特別に日本での在留を認められた場合には、不法滞在の状態が解消され、正規在留者として引続き日本で生活することができます。 ・・・なお、在留特別許可は、積極要素と消極要素を総合的に考慮して許否を決定しますので、結果として許可されない場合には、退去強制令書が発付されることにご留意ください。」』と通知する。

註3:弁護士法第1条 (弁護士の使命)
1 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。

(2009年8月執筆)

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