一般2012年12月07日 事業再編の意外な落とし穴 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:中島宏治
■ 日系企業の進出形態の変化
日系企業の中国進出は1980年代にスタートした。改革開放路線が始まった当初の第1次進出ブーム、南方講話により改革開放路線にエンジンがかかった90年代の第2次進出ブーム、WTO加盟(2001年)をきっかけにした第3次進出ブームを経て、北京オリンピック(2008年)・上海万博(2010年)頃から現在に至るまで、第4次進出ブームのさなかにある。
第1次、第2次進出ブームの頃は、労働集約型の製造業の進出が中心だった。その後、労働コストの上昇、購買力の上昇等の事情もあり、進出の形態も製造から市場を意識したものに変化していった。
■ 既存の現地法人の事業再編
既に中国に進出した日系企業も、上記の流れの中で当然変化が求められている。事業再編と言えば、会社の合併・分割や買収などの会社の形態を変化させるものから、破産、解散清算、持分譲渡などによる撤退に至るまで、多種多様である。法律家の目からみると、ここ10年でそのようなメニューに対応する法律もかなり整備されてきたという印象である。
大連で法律相談を受ける内容も、進出や現地の労働紛争といった類の相談が少なくなり、撤退を含んだ事業再編がらみの相談が増えてきている。
■ 事業再編の意外な落とし穴
事業再編に関する相談を受けて感じるのは、会社において軽く考えられていた問題が意外と重くのしかかってくるということだ。
1つめは、手続きに意外と時間がかかるという問題である。持分譲渡といった比較的容易な方法でも3~5ヶ月ほど、解散清算に至っては、早くても半年、長ければ1年を超えることもある。もちろん会社個別の問題点が原因であることも少なからずあるが、一般的な問題としては、外資企業特有の審査認可機関の認可が必要という点が大きい。会社だけの判断で物事を進められないため、必要以上に審査認可機関への説明を要し、また、認可に時間がかかることが、全体に影響を与えている。
2つめは、従業員の対策を軽視すると手続きが非常に長引くということである。経営統合、移転、破産、解散清算など、従業員の解雇を伴う可能性がある手続きにおいては、可能な限り有期契約の期間満了による契約終了を進めるなど入念に対策を取っておかないと、従業員の解雇にあたり予想以上の反発を受けることになる。解散清算手続きにおいて、従業員が会社の資産を占有したという例もある。いったん紛争になれば、概して日本よりも解決に時間がかかるといえる。
3つめは、外資企業の税制優遇を受けていた場合に、それが条件付きであったことを忘れていたために、思わぬ税金の追徴を受けたというケースが多いことである。これはもはや事業再編に伴うコストを考えるときに必ずチェックしないといけないポイントとなっている。
日系企業の置かれている状況は、ただでさえ事業再編の必要性が高くなっているのに、昨今の日中の政治関係の悪化により、それに拍車がかかることも予想される。現地の進出企業も、そのような可能性を指摘するところが多い。
事業再編の方法の選択の場合に、意外な落とし穴にはまらぬよう気をつけてほしい。
(2012年11月執筆)
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