一般2007年12月05日 日中韓の国境は障害を乗り越え、確実に近くなっている。 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:菅原哲朗
1 2007年9月22日から中国大連市へ、同年10月5日から韓国ソウル市へと短期間のうちに二カ国を往復した。9月25日仲秋の月餅を大連で食べ、国慶節の大型連休(中国の民族大移動は9月29日から10月7日頃まで)の時期に、ソウルでブルゴキ(焼き肉)を食べた。
日本と中国が国交を正常化してから、2007年9月29日で35周年を迎えたが、我々も2000年に大連に外国法弁護士事務所を開設して丸7年が経過した。小泉首相在任の5年間は靖国参拝など様々な障害で日本と中国の政治情勢が緊張する場面もあった。にもかかわらず、日本と中国の経済交流はますます拡大し、経済面において密接な関係を維持している。すでに中国の外貨準備高は2007年3月現在で1兆2020億ドルと世界最大となった。
2 東京の羽田とソウルの金甫空港を結ぶシャトル便が往復する。ついに、日本と中国の首脳会談での合意に基づき、東京の羽田空港と上海の虹橋空港を結ぶ羽田・虹橋線のシャトル便運航が2007年9月29日開港した。移動時間の短縮と、ビジネス需要の要求が強まり、東京・上海間の渡航需要が増加しているのだ。日本航空(JAL)、全日本空輸(ANA)と、中国東方航空、上海航空の4社が、それぞれ1日1往復、計4往復するという。これで日中韓の空に三角形ができ、日中韓の国境は障害を乗り越え、確実に近くなっている。
10月5日(金)から8日(月)までの連休を上海あるいはソウルで過ごす旅行客で羽田の国際線ターミナルは混雑していた。テロによる爆発物対策で、手荷物の水ペットボトルと歯磨き粉チューブが引っかかった。単純に飲料水は放棄させ、チューブは透明な袋に入れる。検問は男女とも上着を脱ぎ、携帯電話を外してもレントゲンの反応が強く、ベルトと時計に反応し、結局皆んな手を広げさせられ、身体検査がされる。韓国の金甫空港も日本に劣らず同様で、透明な袋に入れていない歯磨き粉チューブが見つかり、透明な袋を取りに戻るのが面倒なので「捨てましょうか」と問うと、「今度はいいので、次から入れて下さい」と簡単に見逃す。日中韓とも旅客が増えると入国管理窓口が混雑する。到着した日本人観光客がイライラする不満を解消する為か、大連周水子空港の入管検査場には日本人向けに「私たちを評価して下さい」と無機質の声が流れ、うるさいほど日本語自動音声が繰り返えされる。(注:この趣旨を善解するなら「お待ち頂いている皆様、中国への入国検査の業務をご理解下さい」と翻訳アナウンスすべきだ。)
3 2007年10月5日、昨年同様にソウルの中央大学校法学館で「2007スポーツ法学国際学術大会(第5回)」が開催された。
今回のテーマであるアンチ・ドーピングは世界スポーツ界が緊急に取り組む重要な問題だ。日本アンチ・ドーピング機構(JADA)、韓国アンチ・ドーピング機構(KADA)、中国の国家体育局の「中国オリンピック委員会アンチ・ドーピング事務局」の各責任者が、「各国におけるドーピング防止活動」を報告し、地元韓国の法学者と中国の法学者、並びに日本の弁護士が参加して、熱心な討議がなされた。
北京五輪が成功するか否かは、ドーピング摘発だけでなく、世界の市民から中国国民がスポーツゲームという平和を愛する好ましい市民だと評価されるか、否かにかかっている。2006年10月の本コラムでもコメントしたが、オリンピックは平和の祭典である。北京五輪は「スポーツと政治の分離、スポーツとビジネスの分離」がキーワードだ。
しかし、中国国内投資家の多くが中国政府は「北京五輪まではバブルを容認する」との見通しを立てている。
平和デモへの弾圧と日本人ジャーナリストの射殺事件で揺れ動くミャンマー軍事政権問題に関しても、中国政府は国連安保理で強行あるいは柔軟な手法を駆使しつつ、諸外国からの対中投資が続くような現在の安定した政治・経済環境を維持することが最重要課題だ、と考えているようだ。
(2007年10月執筆)
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