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企業法務2025年08月08日 中国からの撤退について 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:夏目武志

私は2014年から中国の大連の事務所の首席代表を務めているが、大連の日系企業もかなりの数が撤退をしてしまい、この10年あまりで大幅に減少した。大連でタクシーに乗っていても、ほとんどの運転手が口々に大連の日本人が減ったという話をしてくる。現在も景気の先行きに関する見通しは芳しくなく、撤退を視野に入れている日系企業も少なくない。
そこで今回は、中国現地法人の撤退に関する大枠と近時の事例の簡単な紹介を行いたい。
1 中国現地法人の撤退の方法について
中国の現地法人が撤退をする主な方法は①持分譲渡、②清算、③破産に大別される。
① 持分譲渡
持分譲渡は会社の株式持分を譲渡することによる撤退の方法である。
持分譲渡は、中国の子会社を存続させたまま撤退をすることができるため、従業員の解雇などを伴わずに穏便に撤退できる方法として、第1に検討されるべき撤退方法となる。
合弁企業で中方合弁パートナーに持分を譲渡する場合のほか、独資でも中国企業に持分を買い取ってもらったり、中国現地法人の中国人幹部に対して持分を売却したり、様々なパターンがある。
そもそも持分の譲受先を探すことができるかどうか、という点が課題となることが多い。
弁護士が撤退の相談を受けた場合、会社の財務状況(不動産や価値のある機械設備などの有無や損益の状況)を決算書などを通じて把握するとともに、取引先の特徴や従業員の状況など、会社の基本的な状況を個別具体的に把握したうえで、いかなる方針を立てるのが妥当か、まずは検討を行うことになる。
② 清算
持分譲渡が困難な場合、清算が中国からの撤退の主な方法となる。
清算は全ての債務を完済しなければならず、手続が面倒であるとともに、従業員対応や当局との対応など神経を使う必要のある場面が発生することも少なくない。
2017年からは簡易登記抹消という新しい制度も施行されており、2024年に施行された中国の改正会社法では240条において手続が明文化されている。
③ 破産
中国では2007年から企業破産法が施行されていたものの、従来は、人民法院で破産申立が受理されないといった問題があった(日本ではそもそも裁判所が受理をしないという事態は考えづらい状況といえるが、中国では現にそのようなことがある。)。
しかし、2016年以降、企業破産法の取扱に関する人民法院の体制を強化する通達が出され、中国における企業破産の実務は大きく前進している。日系企業でも要件を満たせば破産の申請を行うことが可能である。
2 近時の事例紹介
現在、中国内資企業と日本人出資者の合弁企業の撤退案件を中国律師と共同で受任している。
自動車の部品メーカーであるため、会社の事業を廃止するにあたり、客先との間でトラブル(品質保証を巡る問題や不払いなどの問題)を生じさせないように、いかに円滑・円満に取引終了を迎えるか、という点に細心の注意を払いながら進めている(それがクライアントの心配事でもある)。主要な客先との間で締結されている契約書の内容を精査したうえで、弁護士と依頼者で打合せをしながら顧客対応をしている。事業廃止まで客先に迷惑のかからぬよう生産を計画的かつ正常に行う必要があり、注文予定の確認や材料部品の在庫管理など、ぬかりなく進めなければならない。しかも、一般の従業員には会社を清算することを悟られてはならない。これらは、いわば清算手続に入る前段階の、清算に向けた準備作業と位置づけられるが、この準備段階で法的紛争の発生を防ぎながら、債権債務関係がきれいに整理された状態で清算開始を迎えることは、清算手続を早期円満に実行するためのキーポイントとなる。
このように、清算案件においても、事案ごとにポイントとなる点が異なるので、それを的確に把握しながら事件を進めることが肝要である。
大連の事務所で中国人クライアントと打合せをしつつ、日本人弁護士である私の責任で日本側出資者への状況報告や説明を行い、日中出資者が信頼関係を保ちながら手続が進められるように心を砕いている。

(2025年7月執筆)

(本記事の内容に関する個別のお問い合わせにはお答えすることはできません。)

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  118. 信頼関係の形成に向けて
  119. 中国憲法における「改革・開放」路線
  120. 苦情処理センターの効用
  121. 信頼できる中国人パートナーを得る
  122. 外国への進出と契約

執筆者

夏目 武志なつめ たけし

弁護士

略歴・経歴

1999年03月 中央大学卒業
2000年11月 司法試験合格
2002年09月 司法研修所(岐阜地方裁判所配属)修了
2002年10月 弁護士登録 名古屋第一法律事務所入所
2014年04月 日本法圓坂律師事務所大連代表処第4代首席代表に就任

 日本国内の業務では、多くの中小企業の顧問として、中小企業が日常的に抱える各種問題に対し、いつでも気軽に相談できる身近な存在として、迅速できめ細かい対応を心掛けています。2004年に愛知中小企業家同友会に入会し、2012年には名古屋第一青年同友会会長を務めました。
 中国関連の業務では、2014年に日本法圓坂律師事務所大連代表処第4代首席代表に就任し、在瀋陽日本国総領事館在大連領事事務所や大連日本商工会、中国に進出している日系企業の顧問を務めるほか、日本企業に対する中国法全般のサービスを提供しています。また、最近は中国の企業や個人からの依頼も増えてきて、日本法に関する各種情報のご提供や日本での訴訟代理など様々な業務を行っています。
 愛知県弁護士会では国際委員会に所属しています。

セミナー・講演
2013年11月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「現地法人のかかえる様々なリスクへの対応その1」
       -新外国人出入国管理条例、商標法改正をふまえて-
2014年6月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「現地法人のかかえる様々なリスクへの対応その2」
       -①契約等日常的なリスク対応と②撤退等非常時を想定したリスク対応-
2015年8月(大連) コンシェルジュ20周年記念セミナー
   テーマ「新しい時代を切り拓くための法律講座」
       -中国・大連と共に成長・発展することを目指して-
2015年9月(大阪) 広東広信君達法律事務所との共催セミナー
   テーマ「中国事業にかかわる問題点とその解決策」
       -日本人弁護士の視点で語る中国での清算、撤退に関する近時の動向-
2016年2月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「現地法人のかかえる様々なリスクへの対応その3」
       -①新環境保護法 ②撤退・労務紛争に関する近時の状況-
2017年4月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る最新の法律実務」
       -①外商投資を巡る新たな動き、②撤退に関する新たな動向・企業
        破産法を巡る最新の実務、③日系企業の役に立つ最近の実例紹介-
2018年3月(大連) 株式会社京都銀行大連駐在員事務所との共催
   テーマ「日中両国の弁護士が語る最新の法律実務」
       -環境に関する法律問題と近時の実務動向-
2018年5月(上海) 上海大成律師事務所日本業務部主催 中国ビジネス法務サロン
   テーマ「環境法特別講義」

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