一般2016年10月03日 婚活は慎重に!とある中国人女性と日本人男性の事例 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:久保田祐佳
 婚活ブームの到来から、今後、増加してもおかしくないのではないかと思われる最近の裁判例を1つ、ご紹介させていただきます。
 ご紹介する事案は、結婚相手を紹介するサービスを提供する会社に会員登録した日本人男性と、この会社の紹介によって知り合った中国人女性が、婚約するに至ったものの、男性側がこれを反故にしたとして、女性側が、損害賠償の支払を求めた、というものです(東京地裁平成21年6月29日判決/判タ1328号229頁)。
 結論として、この請求は、認められませんでした。
 事実経過は次の通りです。上海市内でのお見合いツアーに参加したある日本人男性が、そこで、ある中国人女性に出会います。両者は日本人男性が日本に帰った後、テレビ電話で短時間、会話を交わしました。そして間もなく、この日本人男性は、この中国人女性と婚約することを決めた旨の記載のある誓約書に、署名指印をし、紹介会社に結婚ツアーや結婚式料等、約300万円を支払いました。しかし、最終的に、婚約は履行されず、中国人女性側としては、婚約が破棄される結果となってしまいました。
 以下では、裁判所の判断過程を簡単にご説明します。
 今回のケースのように、当事者に外国籍の方が含まれる場合、必ずしも日本の法律が適用されるとは限りません。そのため、本件では、どこの国の法律が解決の基準として適用されるべきか、という準拠法の問題が第一の争点となりました。
 この点については、法の適用に関する通則法という法律があり、裁判所は、この法律の33条の規定から、「当事者の本国法」によって決めるべきであり、婚約(法的には婚姻予約といいます)を履行しないことや不当に破棄されることで生じる損害賠償責任は、両当事者の本国法を適用して、双方の本国法が認める範囲内でのみ認められる、と判断しました。今回でいえば、両当事者の本国法を適用する、というのは、日本法と中国法の両方を適用して考える、ということになります。
 それを前提に、裁判所は、次の争点として、そもそも婚姻予約が中国人女性と日本人男性の間に成立していたのか、という点を、まず、日本法の下で検討しました。
 そして、今回、日本人男性と中国人女性は、上海でのお見合いツアーで初めて会い、帰国後も、テレビ電話を用いて短時間会話した程度の関わりであったことから、日本人男性側には、真に夫婦としてその中国人女性と共同生活を営む意思があったとはいえず、そうすると、日本法の下で、両者の間に婚姻予約が成立していたとはいえない、と判断しました。
 従って、日本の法律の下では婚姻予約自体が成立していないので、中国法の下ではどうなるのかという、次の段階を検討するまでもなく、損害の賠償を求めることはできない、と結論付けました。以上が、今回の判決のおおまかな考え方です。
 確かに、両者の関係はそれほど深いものではなかったようですが、少々、女性側が気の毒な気もします。判決の中では、婚約の誓約書に署名指印するなど、日本人男性の行動は軽率であったと指摘されています。婚活をするに当たっては、軽率な行動は控えるように、という裁判所からの苦言といえるかもしれません。
(2016年9月執筆)
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