一般2010年06月11日 中国における日本人死刑執行の重み 日本人弁護士が見た中国 一般社団法人日中法務交流・協力日本機構からの便り 執筆者:中島宏治
 2010年4月、中国において、麻薬密輸の罪で死刑判決を受けていた日本人4人の死刑が執行されました。4月6日に1人、4月9日に3人が続けて死刑執行となったため、日本でも大きく報道されました。執行地が大連だったこともあり、大連にて勤務する僕も朝日新聞にコメントを求められました。
 中国ではアヘン戦争の経験から、薬物犯罪について非常に厳しい法律となっています。例えば、薬物密輸、販売等に関する罪を定めた中国刑法347条では、アヘン1000グラム以上、ヘロインもしくは覚せい剤50グラム以上を密輸または販売、輸送、製造した場合に、15年以上の有期懲役、無期懲役または死刑に処するとしています。このような法律ですので、50グラム以上の覚せい剤を密輸しようとして空港で捕まった場合には、死刑判決が下される可能性が高いと考えていた方がいいのです。
 今回の4人は、それぞれ、2.5キログラム、5キログラム、1.25キログラム、1.5キログラムの覚せい剤の密輸を企てようとした罪で起訴されていましたので、死刑判決が下されることは十分予想されたことであり、実際にそのとおりになっていました。
 ただ、現在の日中間の良好な関係から、死刑執行はされないのではないかとの楽観的な見方があったことは事実です。突然の死刑執行通告がなされたのに対し、日本政府から家族への面会の申し入れがあり、中国政府はそれを許可して執行を延期する配慮をみせましたが、家族の面会の後、執行が行われました。
 死刑は、人の生命を奪う究極の刑罰であって、その過ちは回復不可能ですので、国際人権規約は、死刑の廃止が望ましいことを示しつつ、たとえ死刑を存置する場合にも、死刑は最も重大な犯罪についてのみ科することができるとしています。そして、薬物犯罪は、「最も重大な犯罪」にはあたらないのではないかとの意見もあります。中国の刑事司法制度は日本と異なり、適正な手続きがされたのか外部からはわかりにくいという特徴もあります。日本弁護士連合会は、会長声明にて、これらの問題を指摘しました。
 このような事件は、残念ながらまだ続くと思います。大連は覚せい剤密輸ルートの1つになっており、空港にて日本人が身柄拘束されることはまた起こるでしょう。大連に事務所を置く私たちの事務所は、日本領事館や中国人律師と連携して、死刑を避けるような運用を求め続けると共に、適正な手続きが行われるかどうかについて、現地で努力していかなければならないと思います。
(2010年6月執筆)
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