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厚生・労働2019年05月10日 医療法改正に伴う医療機関の広告規制に関するアウトライン(法苑187号) 法苑 執筆者:今井智一

 二〇一八年六月一日に医療法が改正され、それまでは広告規制の対象とされていなかった医療機関が運営するウェブサイトも、広告規制の対象とされることとなった。
 医療機関の現場においては大きな関心が寄せられている事項であるところ、筆者は、この分野において幸いにも数回の講演を行う機会に恵まれた。
 そこで本稿では、講演の内容を概括的にまとめつつ、医療機関に対する広告規制のアウトラインを描写することとした。
1.医療機関が行う広告に対する規制の趣旨及び規制の流れについて
 医療機関が集患のために行う広告に対しては、医療法等の法令により一定の規制がなされている。その趣旨は、一つには「医療は人の生命・身体に関わるサービスであり、不当な広告により受け手側が誘引され、不適当なサービスを受けた場合の被害は、他の分野に比べ著しいこと」であり、もう一つは「医療は極めて専門性の高いサービスであり、広告の受け手はその文言から提供される実際のサービスの質について事前に判断することが非常に困難」というところにある。
 この趣旨に基づいて、医療機関に対する広告規制は、「広告可能な事項を限定する」というあり方が採られてきた。すなわち、医療法や省令により広告可能な事項として限定列挙されたもの以外は、広告できないとされてきたのである。
 もっとも、この広告規制には従前は例外があり、その一つがウェブサイトであった。ウェブサイトは、当該医療機関の情報を得ようという目的を有する者が、自ら進んでURLを入力したり検索したりして辿り着く場所であって、こうした点も加味して、ウェブサイトは規制対象となる「広告」ではなく、「情報提供」や単なる「広報」とされ、医療法等の規制対象から外されてきた。
 しかし、特に美容整形分野等でトラブルが発生し、云わば消費者問題化したことに伴い、ウェブサイトも「広告」に該当するものとして整理され、規制対象に加えられることとなった。
2.規制の対象となる「広告」とは何か
 規制の対象となる「広告」の定義は、次の二つである。

  「広告」の定義
(1)  患者の受診等を誘引する意図があること(誘因性)
(2)  医業若しくは歯科医業を提供する者の氏名若しくは名称又は病院若しくは診療所の特定が可能であること(特定性)

 この二つの要件をいずれも満たすものは、「広告」に該当する。
 具体的に問題となるケースとして、次の例を検討する。
・医療機関の検索が可能なウェブサイトに掲載された体験談
 ⇒特定の医療機関の体験談に誘引性がある場合には、広告規制の対象となる。例えば次のような場合は、誘因性があるとされている。
 <1> 医療機関が患者やその家族に、有償・無償を問わず肯定的な体験談の投稿を依頼した場合
 <2> 当該ウェブサイトの運営者が、体験談の内容を改編したり、否定的な体験談を削除したり、又は肯定的な体験談を優先的に上部に表示するなど体験談を医療機関の有利に編集している場合で、それが医療機関からの依頼によって行われたか、医療機関の依頼により行われたものではないとしても、事後的に医療機関がそのように編集されたウェブサイトの運営費を負担する場合
3.「広告」に対する規制の枠組み
 前記2で述べた「広告」の要件に該当するとして、どのような規制が課されるのか。まずは、「限定解除四要件」(なお、この用語は筆者が用いているものであり、法令やガイドラインで用いられているものではない。)を満たすか否かが問題となる。
 すなわち、以下に述べる限定解除四要件をいずれも満たす場合には、広告内容を限定する規制が解除され、広告内容が広く認められることになる。そうすると、後述の「ネガティブ・リスト」 (この用語も筆者が用いているものであり、法令やガイドラインで用いられているものではない。)に該当するかという点が残された問題ということになる。
 他方で、限定解除四要件のいずれかを満たさない場合には、広告内容を限定する規制が解除されない、つまり法令等に定める内容に広告内容が限定されることとなり、その内容以上の広告を行うことは医療法違反の問題を含むことになる。また、「ネガティブ・リスト」に該当するかについても併せて問題となる。

  「限定解除四要件」
(1)  医療に関する適切な選択に資する情報であって患者等が自ら求めて入手する情報を表示するウェブサイトその他これに準じる広告であること
(2)  表示される情報の内容について、患者等が容易に照会できるよう、問い合わせ先を記載することその他の方法により明示すること
(3)  自由診療に係る通常必要とされる治療等の内容、費用等に関する事項について情報を提供すること
(4)  自由診療に係る治療等に係る主なリスク、副作用等に関する事項について情報を提供すること

      満たす ⇒ 広告可能事項限定されない ⇒ ネガティブ・リスト該当性
限定解除
四要件
      満たさない ⇒ 広告可能事項の限定+ネガティブ・リスト該当性

 限定解除四要件は、「四要件」とはいうものの、要件(3)及び要件(4)の下線部にあるとおり、両要件は自由診療についてのみ課せられるものであって、保険診療については問題とならない。保険診療の場合には、要件(1)及び(2)の「限定解除二要件」のみ満たせばよいことになる。しかも、要件(1)は、医療機関のウェブサイトであれば満たすことが殆どと考えられ(なお、バナー広告は、「患者等が自ら求めて入手する情報」ではないため、要件(1)を満たさない。)、要件(2)については電話番号等の連絡先を記載することにより充足することが可能となるため、要件を満たすことは容易といえる。そうすると、保険診療の場合には、「ネガティブ・リスト」に該当しないよう注意することが残された問題となる。
 他方で、自由診療の場合には、要件(3)及び(4)を満たすことができるかが重要となる。特に、医療機関がマーケティング効果を考えた場合、要件(3)及び(4)の記載量が多くなると読みにくく分かりにくいウェブサイトになりかねないため、マーケティング効果とのバランスが問題となる。
 このように、保険診療か否かで、ウェブサイトの内容についてどの点に配慮・注意しなければならないのかの力点が異なってくる点に注意が必要である。
4.「ネガティブ・リスト」について
 前記3の「限定解除四要件」を満たすか否かで広告可能な事項の広狭がかなり異なることとなる。
 もっとも、その問題とは別に、医療機関の広告であれば必ず守らなければならない事項が以下のとおり、医療法及び省令に列挙されている。これを筆者は「ネガティブ・リスト」と呼んでいる。

  「ネガティブ・リスト」
(1) 虚偽広告
(2) 比較優良広告
(3) 誇大広告
(4) 患者等の主観に基づく体験談
(5)  治療等の内容又は効果について、患者等を誤認させるおそれがある治療等の前又は後の写真等
(6) 公序良俗に反する内容の広告
(7) 品位を損ねる内容の広告
(8)  医薬品医療機器等法や景表法、健康増進法など、他法令又は他法令に関する広告ガイドラインで禁止される内容の広告

 この中で(4)及び(5)は、平成三〇年六月の改正以降特に注意が必要と考えられる。というのも、ウェブサイトが平成三〇年五月までは広告規制の対象となっていなかったことから、患者や家族の体験談を掲載し、あるいは治療の前後写真を写真のみ掲載しているウェブサイトが現在でも多く見受けられるからである。
 (4)については、個人が運営するウェブサイト、SNSの個人のページ及び第三者が運営するいわゆる口コミサイト等への体験談の掲載については、医療機関が広告料等の費用を負担する等便宜を図って掲載を依頼したのでない場合は誘引性がなく、広告に該当しないとされている。ただ、反対に言えば、医療機関が広告料等を負担している場合には、口コミサイト等への体験談掲載は広告に該当し、そうした広告自体がネガティブ・リストに抵触して掲載が許されないことになる。また、医療機関自らのウェブサイトに掲載することも許容されていない。
 (5)については、「患者等を誤認させるおそれ」がない場合に限って、治療前後の写真掲載も可能とされているが、「誤認させるおそれ」がないと言えるためには、通常必要とされる治療内容、費用等に関する事項や、治療等の主なリスク、副作用等に関する事項等の詳細な説明を付することが必要とされている。
5.最後に
 本稿では紙面の都合上アウトラインのみを説明したが、より詳細な内容を検討する場合には、厚生労働省医政局の「医療法における病院等の広告規制について」
(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html)に掲載されている、同省が指針として示している「医療広告ガイドライン」及び同ガイドラインのQ&Aが最優先の検討資料となる。
 医療機関の現場においては、集患というマーケティング目的を達成しつつ、医療法等の法令違反に該当することのないよう、云わばアクセルとブレーキを使い分ける対応が求められる。規制の内容を認識してブレーキの踏み所を知ることにより、集患というゴールに向けたアクセルを効率的に踏むことも可能になるのではないだろうか。

(弁護士)

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