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一般2016年09月05日 マイナンバー雑感(法苑179号) 法苑 執筆者:高松志直

1 マイナンバー制度の運用スタート
 今年の一月から「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(いわゆるマイナンバー法)が施行され、通知カードによって通知されるマイナンバーの取扱いをめぐって、一人一人の住民としても、事業者の対応としても、様々な場面でマイナンバーの取扱いが話題になることが多くなっています。
 なぜマイナンバーの取扱いが話題になることが多いのかと言えば、その原因の一つとしては、マイナンバー法によって、マイナンバーの収集・利用・保管などといった取扱いに関し、法令に沿った対応以外の取扱いが原則として禁止されていることが原因として挙げられると思います。個人情報保護法に基づく個人情報の取扱いなど、情報の取扱いの重要性がコンプライアンス上注目されるようになって相当の期間が経過していますが、「そもそも取得してはいけない」であるとか、「そもそも利用してはいけない」であるとか、一種の「取扱留意情報」のレベルで法令のルールが定められている例はそれほど多くなく、このような特徴が社会において色々な論点を生じさせているのではないかと感じています。マイナンバー制度の位置付けも含め、今後は、制度の更なる正確な理解が重要となるでしょう。
 なお、私も職業上、支払調書等の作成を目的として、外部の方々から、マイナンバーの提供を求められることがありますが、その際に、提供を求める方々が色々な心配をされているご様子を見ると、この辺りの不安感が落ち着くにはまだまだ少し時間がかかるかなと感じています。

2 色々と話題になったケース
 では、具体的にどのようなことが話題になったかを少し振り返ってみたいと思います。
 制度導入当初にまず話題になったのが、「マイナンバー占い」です。これは、自分のマイナンバーをサービス業者に提供し、そのマイナンバーによって占いを実施するというようなサービスです。一見するとあり得そうなサービスにも見えますが、マイナンバー法上、マイナンバーの利用は法令の定める事務の範囲に限られていますので、当然、このようなサービスは法令上実施することはできません。そのため、行政当局から、すぐに注意喚起が行われ、このようなサービスはすぐに立ち消えとなりました(なお、占いを装ってマイナンバーを詐取することを狙ったような悪質事業者もいた模様です。)。このほかにも、似たようなサービスとして、マイナンバーに特定の番号が含まれている場合に代金を割り引きするサービスなども昨年は話題になりましたが、マイナンバー法の趣旨に鑑み、現状では、このようなサービスは行われていないものと思われます。
 制度導入からしばらく経ってからは、さすがに「占い」のような極端なケースはなくなってきましたが、それでも、色々と話題になるケースは他にも発生しています。
 その一つの例が、通知カードの本人確認書類としての取扱いです。皆様のお手元にも紙の通知カードが届いているかと思いますが、この通知カードは、一般のサービスなどとの関係においては本人確認書類としては取り扱うことができないものとされています。もっとも、通知カードの交付の当初は、このような取扱いが必ずしも広く周知されていなかったこともあり、誤って通知カードが本人確認書類として利用されることがありました。この点についても、行政当局からの周知等が行われ、昨今では、通知カードを本人確認書類として用いることができない認識が浸透してきていると言えるでしょう。
 このように、マイナンバーの取扱いを巡っては、制度の意味合いに関する認識が浸透するまでに様々な混乱が生じているところであり、今後も、マイナンバー法の各種のルールを巡り、色々な場面で様々な論点が話題になるものと思われます。

3 民間事業者への影響
 マイナンバーは、従業員や外部の支払先との関係で広く取扱いが必要となりますので、社内規程等の調整やマイナンバーの取得など、既に様々な形での対応が行われているところだと思います。
 社内規程等の調整については、昨年の段階では、どのように作成するのか、一般の個人情報との関係をどのように考えれば良いかといった点を中心に対応の検討に色々と悩む声も聞かれましたが、現在では、各事業者の検討も進み、概ねこの辺りの対応は落ち着いてきている印象です。また、マイナンバーの個別の取得については、従業員の数が多くない企業では収集もある程度容易ですが、従業員の数が多い企業では順次マイナンバーを収集する周知を繰り返すなど、いまだその対応に苦慮している様子も見られるようです。この点に関しては、マイナンバー制度やマイナンバーカードの普及や周知が更に進むことにより、これらの状態も徐々に解消されていくのではないかと思います。具体的な対応を実際に検討されているご担当者の方々には頭が下がる思いです。
 なお、このようにマイナンバーの対応が順次進んでいるところではありますが、実は、マイナンバー法については、昨年改正法が成立しており、今後の展開として、預貯金への付番が新たに開始される予定になっています。当面は、預貯金への付番は義務ではないものの、預貯金とマイナンバーとの関係は、企業としても、個人としても、色々な影響が生じるものと思われますので、今後の動向には留意が必要でしょう。

4 今後への期待
 このように色々と対応が必要なマイナンバー制度ですが、個人を特定できる番号の公的インフラが確立されれば、様々な場面においての活用が期待できます。まず、行政機関との関係でポータルサイトが開始され、マイナンバーを活用することで行政手続の省力化などが実施されることになるでしょう。また、このような行政手続における利用にとどまらず、今後の議論の展開によっては、民間のサービスにおいてもマイナンバーと連携した形で様々な利用が進む可能性もあるものと思われます。例えば、マイナンバーカードを使った公的個人認証の仕組みで本人確認を簡便に実施するようなことが現在でも期待されています。
 マイナンバーの法務に関与することが多い一弁護士としては、制度が適正な形で理解された上で普及が進み、様々な層の人達にメリットがある形でマイナンバーの利用に関する議論が今後も進むことを期待しています。

(弁護士)

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