カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

一般2015年05月01日 二度の心臓手術(法苑175号) 法苑 執筆者:安田剛

第1 はじめに
 私は、平成一三年一〇月に名古屋で弁護士登録し、現在まで弁護士として活動してきました。弁護士としては一四年目となり、年齢的には、今年(平成二七年)五月に四一歳を迎えることになります。
 日本人の平均寿命は、平成二四年の厚生労働省の調査で、男性八〇・二一歳、女性八六・六一歳とされていますので、まだ長い人生のちょうど折り返し地点を迎えたところだと思います。
 ただ、私は、学生時代に二度ほど心臓の手術を受けたことがあり、その時には大変な思いをしました。現在は極めて健康で、ごく普通の日常生活を送ることができており、弁護士の業務上も特段支障はありません。ただ、将来的には心臓の手術をまた受けなければならないことが予定されているため、これからも大変な思いをしなければならないかも知れません。

第2 二度の心臓手術
 「大動脈弁閉鎖不全症」というのが、私のもともとの病気の名前です。「大動脈弁」というのは、心臓の左心室から全身に血液を送るときに、血液が左心室内に逆流しないために血液をせき止める役割をする弁です。健康な人であれば、大動脈弁は三枚の弁からできているそうなのですが、私の場合は、生まれつき二枚しかないそうで、このため弁が十分に閉鎖せず(「閉鎖不全」)、左心室から全身に送り出した血液の一部が心臓内に逆流してしまうのです。
 弁の逆流があると、逆流する血液の分だけ、全身に血液が行き渡らず、体に十分な酸素が届かない状態になってしまいます。
 しかし、心臓には、自動対応能力のようなものがあり、逆流して戻ってくる血液の分だけ、左心室から全身に血液を送り出す量を増やそうと、心臓が大きくなるのだそうです。ちょうど、筋トレで、負荷をかけて体を鍛えると、体の筋肉が隆起し筋肉モリモリの体になるのと同じで、心臓の筋肉(心筋)が鍛えられ、心筋の量が増え、心臓が大きくなるようです(心肥大)。
 このため、心臓弁に逆流があっても、当面の間は大丈夫なのですが、心臓の限界を超えて心肥大が進むと心臓の筋肉(心筋)が痛んでしまい、機能が失われてしまいます。
 そこで、心臓の大動脈弁に問題がある場合、逆流の程度にもよりますが、心肥大が進み過ぎる前に、外科手術を行い、閉鎖が不十分な弁を、きちんと機能する弁に取り替えることが必要となります。
 私の場合、心臓に問題があると初めて言われたのが、高校一年生のときでした。高校の内科検診で聴診器で心臓を診た医師から「心雑音がある。」と言われたのです。病院で詳しい検査を受けることを勧められ、高一の夏休みに両親と大学病院へ行ったところ、先に書いたような大動脈弁閉鎖不全症だったというわけです。
 しかし、高校に入学するまでは、自身の心臓に問題があるとは全く考えたこともありませんでした。小学校、中学校とも、体育の授業も問題なく受けており、学校で行われるマラソン大会にも参加していました。中学校の時には、部活動でバスケットボールもやっていました。万年補欠でしたが、顧問の先生が非常に熱心で、ほぼ毎日、土日も含め、練習漬けでしたが、心臓に病気があると感じたことは一度もありませんでした。
 今から思えば、無理をし過ぎて倒れたりすることがなくて良かったと思いますが、とにかく高校に入るまで心臓病の自覚は全くありませんでした。
 しかし、いったん心臓に問題があるということになると、激しい運動は控えるよう医師から言われますので、それ以降高校の体育の授業はほとんど欠席することになり、マラソン大会も当然欠席となりました。さらに一番残念な思いをしたのが、高校の修学旅行で九州に行ったのですが、阿蘇山の火口付近への登山(登山と言ってもそれ程勾配がきついわけではないのですが)について、自分だけ参加できなかったことです。
 高校一年生のときに行った大学病院の検査の結果では、弁の逆流の程度は比較的大きく、いずれ手術が必要になるが、その時点ではまだ心臓の機能には特段の問題はなかったので、定期的に様子をみて、手術の時期を考えましょう、ということでした。
 心臓弁に問題がある場合、その弁を残したまま、きちんと機能するように弁の形を整える「弁形成術」という手術の方法もありますが、私の場合は、大動脈弁の二尖弁(本来三枚ある弁が二枚しかない)で、弁形成術では無理で、弁を丸ごと別の弁に取り替える「弁置換術」が必要ということでした。
 弁置換術の場合、もともとある自分自身の心臓弁を別の弁に取り替えるのですが、多くの場合、機械弁といわれる金属製の弁に取り替えることになります。ただ、機械弁は人体にとっては異物のため、血液が機械弁のところで凝固(固まる)して、血栓(血の塊)ができ、この血栓によりせっかく入れた機械弁がきちんと機能しなくなったり、機械弁のところでできた血栓が剥がれ、そのまま血流に乗って、例えば脳の細かな血管に詰まって脳梗塞等を引き起こしたりすることがあるというデメリットがあります。
 そこで、機械弁を入れる場合、血液が凝固するのを防ぐため、抗凝固剤の「ワーファリン」と呼ばれる薬を一生飲み続けなければなりません。ワーファリンを服用すると血栓ができにくくなります。ただ、血液を正常な状態より固まりにくくするわけですので、当然、出血したときの止血は困難となり、血が止まりにくくなります。
 機械弁を入れると、その後は一生ワーファリンを飲み続ける必要がありますので、血が止まりにくいというリスクを抱えて生活することになり、日常生活の実際上も、精神的にも負担は大きくなります。
 私は、大学二年生の時に手術を受けることになりました。高一の時から、数か月毎に大学病院に通院していましたが、その間、少しずつ心肥大が進み、不整脈の頻度が多くなるなど心臓への負担が大きくなってきている様子でしたので、心臓がダメになってしまう前に、手術を行うということになったのです。
 大学二年生の一一月に、通院していた大学病院で大動脈弁の弁置換術を受けました。今から二一年前のことです。これが一回目の手術です。もっとも、このときはまさか二回目の心臓手術を受けることになるとは考えていませんでした。
 手術では、開胸した後、いったん心臓を止めて、人工心肺装置につなぎ、心臓が止まっている間に弁を入れ替えるというものです。成功率は九五%以上という説明は受けていましたが、内心不安でした。
 もっとも、手術自体は成功し、一か月ほどで退院することができ、順調に体調も回復しましたので、年明けの一月から大学の授業に復帰しました。
 しかし、手術後の定期診察のため病院へ行ったときに、手術した大動脈弁に、ほんの僅かだが弁の逆流があるということが分かりました。
 その後、二月に入ると、二度ほどですが、突然急激に体温が四〇度近くにまで上がり酷い悪寒が出て、それが三〜四時間続いた後、また元通りの平熱に戻るという発作のような症状が出ました。また、心臓の調子も少し歩いただけで息切れするように疲れやすくなりました。
 そこで、再度病院に行き、詳しい検査を受けたところ、手術の際に取り付けた機械弁が、既に全体の三分の一程度、外れてしまっており、弁の逆流が悪化し酷い状態になっていることが分かり、即日入院することになりました。
 手術の際に取り付けた機械弁が外れてきた原因は、機械弁を取り付けた箇所に感染が発生し、炎症を起こしたためでした。「感染性心内膜炎」というものです。
 感染が発生した原因は、よく分かりません。一回目の手術の際か、手術前から細菌感染があったのか、が考えられるところです。
 ともかく細菌感染により、心臓に炎症が発生しているので、抗生物質の投与により感染を抑えることになり、入院した日から、三種類の抗生物質をそれぞれ数時間毎に二四時間体制で点滴により投与を受けることになりました。
 また、一回目の手術で取り付けた機械弁は既に三分の一ほど外れてしまって、弁の機能を果たしていないため、再度弁置換術を受けなければなりませんでした。
 ただ、機械弁を入れた箇所は感染により炎症を起こしているため、再手術により再度同じような機械弁を取り付けても外れてきてしまう恐れがあるということで、少しでも成功する確率が高いようにということで、二回目の手術では機械弁ではなく、生体弁を付ける手術を受けることになりました。
 かくして、一回目の手術を受けてから約四か月後の三月一日に、二回目の心臓手術を受けることになりました。
 手術日は、朝八時過ぎに病室を出て、私自身は麻酔がかかっているので全く記憶はありませんが、手術が終わり手術室から病棟に戻ってきたのが、翌日の午前一時過ぎだった(約一七時間)と聞いています。
 このときの手術で取り付けられた生体弁は、亡くなった人から提供された弁でした。ただ、その当時(現在もそうなのかも知れませんが)、亡くなった人からの弁の提供は極めて少なく、日本国内で提供を受けることは不可能に近い状態だったため、アメリカから提供を受けたものでした。私の病状が思わしくなく緊急性を要するということで、アメリカでの心臓弁の移植希望者のリストの中でも優先的な順位に挙げてもらい提供されたものでした。
 幸い、この二回目の手術がうまく行き、その後感染性心内膜炎も、抗生物質の点滴を続けたことにより治まり、手術から約三か月経過した六月に無事退院することができました。

第3 その後現在まで
 以上のような次第で、学生時代に二度の心臓手術を受けましたが、その後は定期的に通院しながら、ごく普通の健康な日常生活を送ることができています。
 司法試験に合格し、弁護士登録してからも、支障なく働くことができており、本当に感謝しています。
 大学二年生の二〇歳の時に手術を受けましたが、既に約二一年が経過しようとしており、既に自分自身の生まれた時の大動脈弁での年数より、手術により移植された生体弁での時間の方が長くなろうとしており、自分の中では感慨深いものがあります。
 ただ、生体弁は、感染に強いというメリットがありますが、機械弁と違い、半永久的に使い続けることができません。生体弁は、年数の経過により、徐々に弁が固くなり(石灰化というそうですが)、機能が低下してしまうのです。機械弁は、金属でできているため、半永久的に死ぬまで再手術の必要性はないのですが、生体弁の場合、弁としての寿命があるため、再手術を受けなければならないのです。
 既に手術から約二一年が経過しました。手術時の説明では、生体弁の寿命は五〜一〇年くらいと言われましたので、まさか二〇年以上も再手術を受けずに、健康に過ごすことができるとは思ってもいませんでした。ただ、今後はいつ再手術となってもおかしくない時期に来ており、まだまだ自分自身の心臓病とは長く付き合ってゆかなければなりません。

(弁護士)

人気記事

人気商品

法苑 全111記事

  1. 裁判官からみた「良い弁護士」(法苑200号)
  2. 「継続は力、一生勉強」 という言葉は、私の宝である(法苑200号)
  3. 増加する空き地・空き家の課題
     〜バランスよい不動産の利活用を目指して〜(法苑200号)
  4. 街の獣医師さん(法苑200号)
  5. 「法苑」と「不易流行」(法苑200号)
  6. 人口減少社会の到来を食い止める(法苑199号)
  7. 原子力損害賠償紛争解決センターの軌跡と我が使命(法苑199号)
  8. 環境カウンセラーの仕事(法苑199号)
  9. 東京再会一万五千日=山手線沿線定点撮影の記録=(法苑199号)
  10. 市長としての14年(法苑198号)
  11. 国際サッカー連盟の サッカー紛争解決室について ― FIFAのDRCについて ―(法苑198号)
  12. 昨今の自然災害に思う(法苑198号)
  13. 形式は事物に存在を与える〈Forma dat esse rei.〉(法苑198号)
  14. 若輩者の矜持(法苑197号)
  15. 事業承継における弁護士への期待の高まり(法苑197号)
  16. 大学では今─問われる学校法人のガバナンス(法苑197号)
  17. 和解についての雑感(法苑197号)
  18. ある失敗(法苑196号)
  19. デジタル奮戦記(法苑196号)
  20. ある税務相談の回答例(法苑196号)
  21. 「ユマニスム」について(法苑196号)
  22. 「キャリア権」法制化の提言~日本のより良き未来のために(法苑195号)
  23. YES!お姐様!(法苑195号)
  24. ハロウィンには「アケオメ」と言おう!(法苑195号)
  25. テレビのない生活(法苑195号)
  26. 仕事(法苑194号)
  27. デジタル化(主に押印廃止・対面規制の見直し)が許認可業務に与える影響(法苑194号)
  28. 新型コロナウイルスとワクチン予防接種(法苑194号)
  29. 男もつらいよ(法苑194号)
  30. すしと天ぷら(法苑193号)
  31. きみちゃんの像(法苑193号)
  32. 料理を注文するー意思決定支援ということ(法苑193号)
  33. 趣味って何なの?-手段の目的化(法苑193号)
  34. MS建造又は購入に伴う資金融資とその担保手法について(法苑192号)
  35. ぶどうから作られるお酒の話(法苑192号)
  36. 産業医…?(法苑192号)
  37. 音楽紀行(法苑192号)
  38. 吾輩はプラグマティストである。(法苑191号)
  39. 新型コロナウイルス感染症の渦中にて思うこと~流行直後の対応備忘録~(法苑191号)
  40. WEB会議システムを利用して(法苑191号)
  41. 交通事故に基づく損害賠償実務と民法、民事執行法、自賠責支払基準改正(法苑191号)
  42. 畑に一番近い弁護士を目指す(法苑190号)
  43. 親の子供いじめに対する様々な法的措置(法苑190号)
  44. 「高座」回顧録(法苑190号)
  45. 知って得する印紙税の豆知識(法苑189号)
  46. ベトナム(ハノイ)へ、32期同期会遠征!(法苑189号)
  47. 相続税の申告業務(法苑189号)
  48. 人工知能は法律家を駆逐するか?(法苑189号)
  49. 土地家屋調査士会の業務と調査士会ADRの勧め(法苑189号)
  50. 「良い倒産」と「悪い倒産」(法苑188号)
  51. 民事訴訟の三本の矢(法苑188号)
  52. 那覇地方裁判所周辺のグルメ情報(法苑188号)
  53. 「契約自由の原則」雑感(法苑188号)
  54. 弁護士と委員会活動(法苑187号)
  55. 医療法改正に伴う医療機関の広告規制に関するアウトライン(法苑187号)
  56. 私の中のBangkok(法苑187号)
  57. 性能規定と建築基準法(法苑187号)
  58. 境界にまつわる話あれこれ(法苑186号)
  59. 弁護士の報酬を巡る紛争(法苑186号)
  60. 再び大学を卒業して(法苑186号)
  61. 遺言検索システムについて (法苑186号)
  62. 会派は弁護士のための生きた学校である(法苑185号)
  63. 釣りキチ弁護士の釣り連れ草(法苑185号)
  64. 最近の商業登記法令の改正による渉外商業登記実務への影響(法苑185号)
  65. 代言人寺村富榮と北洲舎(法苑185号)
  66. 次世代の用地職員への贈り物(法苑184号)
  67. 大学では今(法苑184号)
  68. これは必見!『否定と肯定』から何を学ぶ?(法苑184号)
  69. 正確でわかりやすい法律を国民に届けるために(法苑184号)
  70. 大阪地裁高裁味巡り(法苑183号)
  71. 仮想通貨あれこれ(法苑183号)
  72. 映画プロデューサー(法苑183号)
  73. 六法はフリックする時代に。(法苑183号)
  74. 執筆テーマは「自由」である。(法苑182号)
  75. 「どっちのコート?」(法苑182号)
  76. ポプラ?それとも…(法苑182号)
  77. 「厄年」からの肉体改造(法苑181号)
  78. 「現場仕事」の思い出(法苑181号)
  79. 司法修習と研究(法苑181号)
  80. 区画整理用語辞典、韓国憲法裁判所の大統領罷免決定時の韓国旅行(法苑181号)
  81. ペットの殺処分がゼロの国はあるのか(法苑180号)
  82. 料理番は楽し(法苑180号)
  83. ネット上の権利侵害の回復のこれまでと現在(法苑180号)
  84. 検事から弁護士へ― 一六年経って(法苑180号)
  85. マイナンバー雑感(法苑179号)
  86. 経験から得られる知恵(法苑179号)
  87. 弁護士・弁護士会の被災者支援―熊本地震に関して―(法苑179号)
  88. 司法試験の関連判例を学習することの意義(法苑179号)
  89. 「スポーツ文化」と法律家の果たす役割(法苑178号)
  90. 「あまのじゃく」雑考(法苑178号)
  91. 「裁判」という劇薬(法苑178号)
  92. 大学に戻って考えたこと(法苑178号)
  93. 生きがいを生み出す「社会システム化」の創新(法苑177号)
  94. 不惑のチャレンジ(法苑177号)
  95. タイ・世界遺産を訪ねて(法苑177号)
  96. 建築の品質確保と建築基準法(法苑177号)
  97. マイナンバー制度と税理士業務 (法苑176号)
  98. 夕べは秋と・・・(法苑176号)
  99. 家事調停への要望-調停委員の意識改革 (法苑176号)
  100. 「もしもピアノが弾けたなら」(法苑176号)
  101. 『江戸時代(揺籃期・明暦の大火前後)の幕府と江戸町民の葛藤』(法苑175号)
  102. 二度の心臓手術(法苑175号)
  103. 囲碁雑感(法苑175号)
  104. 法律学に学んだこと~大学時代の講義の思い出~(法苑175号)
  105. 四半世紀を超えた「渉外司法書士協会」(法苑174号)
  106. 国際人権条約と個人通報制度(法苑174号)
  107. 労働基準法第10章寄宿舎規定から ディーセント・ワークへの一考察(法苑174号)
  108. チーム・デンケン(法苑174号)
  109. 仕事帰りの居酒屋で思う。(健康が一番の財産)(法苑173号)
  110. 『フリー・シティズンシップ・クラス(Free Citizenship Class)について』(法苑173号)
  111. 法律という窓からのながめ(法苑173号)

関連記事

情報がありません

関連カテゴリから探す

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索