一般2020年01月08日 ベトナム(ハノイ)へ、32期同期会遠征!(法苑189号) 法苑 執筆者:今村憲治
一、昭和五三年四月、最高裁判所司法研修所入所同期は、「三二期」と俗称されている。二年後の同五五年四月に合格者約四六〇名のうち、大半が実務法曹として全国に巣立っていった。
そのうち、愛知県弁護士会(当時は、名古屋弁護士会といった。)に登録した者は二〇数名であった。大半が先輩の弁護士事務所に雇ってもらい、数年の実務見習いを経て独立した。残念にして、東海豪雨の被害、登山途中の滑落、病死で三名が物故したが、その余は現在も弁護士の肩書きで頑張っている。さらに、昨年から裁判官になった同期のうち二人が、名古屋高等裁判所長官と名古屋地方裁判所の所長として赴任しており、今、名古屋の同期は元気である。
二、ところで、この三二期愛知県弁護士会登録同期の集まりがある(時には、同期で検事を退官して公証人の職にいる者も参加する。)。研修や親睦を兼ねてゴルフをしている。三か月に一度は県内のゴルフ場で開催し、一年に一度は県外へ遠征旅行にでている。この遠征旅行先としては、これまで、静岡県、北海道、秋田県、鹿児島県、宮崎県、沖縄県、それにサイパンなどの海外遠征など、各地を訪れている。
私は、県内の集まりには欠席が大半であるが、県外遠征は宿泊が伴うため、ゴルフのあとの宴席で、皆と歓談ができることを楽しみに毎回(と、思う。)参加している。
三、これまでに、ものにならなかったと自覚した人、体に変調をきたして休憩中の人、仕事を自覚的には辞めて隠居したと思われる人、群れることになじまない人、幹事が案内を出していないと思われる人を除いて遠征旅行の時にも一〇名程参加している。
四、平成三〇年(二〇一八年)は、海外遠征の年に当たり、ワイワイガヤガヤの議論の末、ベトナムはハノイと決まった。皆、六五歳から七〇歳位の「いい年」であり、バタバタの移動は疲れる。そのため、三泊(最終日は機内泊)五日のホテルは、日航ハノイのみで移動なし。ゴルフは、二日目と三日目のみ。一日目は市内観光、四日目はハロン湾クルーズ。夕食は一日目がワイルドロータス(ベトナム料理)、二日目はアーヤットアバロン(中華料理)、三日目は紀伊(日本料理)。何せ、同期の一人が○○○という旅行会社の顧問であり、至れり尽くせり、である(会費もそれなりではあるが・・・。)。まあ、元気なうちの年配者旅行であり、みんなこの中で最初に脱落したくないため、やせ我慢をして行くと決めたらどこまでもである。それと、事前に会費を納めているため、みんな好きなものをチョイスする。私は、今回は病後であり、薬のためか、舌が苦いものを受け付けず、ビールも日本酒もワインもウィスキーも口にしなかった。何とか、付き合えたのが、ジントニックであった。その結果、どうも割り勘負けをした。
五、九月八日、朝、中部国際空港(セントレア)に集合。私は四日市の山の方に住んでおり、かつて寝坊して飛行機に置いて行かれそうになったので、それからは、空港内のホテルに前泊。集合して、いつもの発着場の見えるセントレア4階のレストランで朝食。朝からジョッキをおかわりしている強者もいた。
VN347号機で、いざ、ハノイへ。PM2:00頃に着いた。これから数日間の移動のため借り切ったバスに八人で乗り込む。ドライバーさんとガイドさんを入れても一〇名。ゴルフバッグもバスの荷物入れに楽々入り、スカスカの空席。ところが、さみしがり屋が集まったのか、二人掛けに寄り集まってガヤガヤしているので、後ろ半分は空気を乗せているだけ。
六、ホテルにチェックインして荷物を置いた後、ハノイの市内観光へ。土曜日の夕方のため、人通りは多く、雑踏の中をブラブラする。スーパーやデパートは少なく(?)、露店の店が犇めいている。ちょろちょろ動く車の横をてんこ盛りの荷物を積んだ自転車が行き交う。大きな湖の近くに広場があり、露天商も多い。台湾や韓国と異なり、付近の建物の中には、ヨーロッパの趣がある。
かつてのインドシナとして、フランスの面影が残っているのか?探せば、フレンチの美味しい店もあるだろう。湖を背にみんなで写真を撮る。これが先々の想い出を導いてくれる。その後訪れたホーチミン記念公園ともいえる広場には、平穏な夕刻の散策エリアの様相が垣間見えた。しかし、如何にドイモイ政策を採ろうとも長年続いたベトナム戦争の勝利の英雄を記念する建物であり、どこかしら北京の天安門広場が脳裏をよぎった。願わくば、ベトナム国民の知的水準と国家の成熟による反暴力的治世で、社会主義体制とはいえ、新興国から先進国へのスムーズなテイクオフを望みたい。中国が抱える人口の多さと領土の広さが統治を困難にしており、一党独裁による監視国家でしか統治ができないのとは異なるのがベトナムと思いたい。国民が選ぶ体制、それが社会主義か資本主義かは、国民が判断することであり、他の国があれこれ言うことではないだろう。資本主義が拡大再生産を前提とする以上、国も民も現状にほぼ満足の成熟先進国家は、もはやGDPは伸びず、今後の国家の方針を決める羅針盤に苦慮している。その点、領土と国民の少ないベトナムにあっては、遥か昔のギリシャにおける直接民主制とローマの賢人政治がなされ得るとすれば、国内体制はいずれでも良いと思われる。何はともあれ、諸外国と融和した国家の発展を目指して欲しいと思った。
七、さて、夕食は、ベトナム料理のお店に。お店のランクは上級らしい。建物も接客も良かった。メニューは海鮮と中華をフレンチ風にアレンジした感じ。日本でたまに行く無国籍料理と思えばよい。
少なくとも、上級といわれるこのレストランは、一〇年程前に、複数の家族で初めてハノイに来たときのような、また、数年前に仲間内でホーチミンを訪ねた時のような雑然とした感じではなかった。数年でベトナムが驚異的な発展をしたのか、そのようなところは今回のルートから避けたのかは分からない。
生暖かい風の中、バスでホテルに戻る。昔なら、その後、一人で街中をふらつくのであるが、病み上がりのためか一日の疲れがどっと出て、すぐに眠りについた。
八、九日、一日目のゴルフは、キングスアイランドゴルフ倶楽部である。その名前の通り、フェリーでキングスアイランド島に向かう。いわゆるリゾートゴルフ場である。島全体がゴルフ場として開発されていた。天気は何とか持ちそうである。第一打はみんな緊張したのか、フェアウェイを広く使い、それぞれ散っていった。一組に四人の現地キャディさんが付き、楽しくラウンドできた。リゾート倶楽部だけあり、片言の英語で会話が通じる。誰かさんは、ゴルフプレーよりキャディさんとの会話を楽しんでいた。このコースの記憶が強く印象に残っており、翌日のハノイ市内の名門ゴルフ倶楽部は全く記憶にない。どちらにしろ、スコアーカードが残っていないことや、誰もホールインワンがでなかった(かつて、サイパン遠征の時は、幹事の○○君がホールインワンを達成し、全員で大宴会をした。
しかし、加入していたホールインワン保険が「国内限定」であることを知ったのは、帰国後であったが・・・。)ことから、今回のゴルフについては、研修の実は上がらなかった。ホールアウト後のクラブハウスでの懇親会も、「事務所はいつまでやるのか」、「後を誰に託すのか」、「子供が後を継ぐのか」とかの承継の問題や、体調についての慰め合いが主であり、これまでのような弁護士会のあるべき姿についての討論は少なかった。これも、皆、バリバリの第一線から引き始めているためかもしれない。
夜の食事会場は、ハノイが発展している象徴のようなリゾート施設の中にあった。コンドミニアムであり、中華の食事会場の外では、現地の富裕層が、人工池に向かってゴルフ練習をライトの中で励んでいた。流石にここは、日常生活空間ではなく、この国も「富めるものから富めよ」という隣国の政策の影響を受け、平等が影を潜めていた。ジントニックがなく、タイガービールを氷で割ってちびちび飲んだ。
翌日の一〇日は、省略。記憶も記録もない。ただ、夕食は紀伊という和食であったことだけ、手帳に示されている。
九、一一日は、ハロン湾クルーズであった。ここも貸切りの船。
船内には、バーラウンジもあり、貴金属のショップも完備。ただ、店員の方は、ラウンジの女性が兼ねていた。クルージングは、あの有名な、「007」の撮影場所を巡るコースであり、湾内の点在する島影に建設されている秘密基地を偵察する「007」が美女と水中から近づく時にBackで流れる「タンタカターン、タタ、タンタカターン、タタ、タターン・・・」のメロディを口ずさむ。ゆっくりした時間が過ぎていった。スカーフやら小物の貴金属を購入したが、手元には何も残っていない。近くの寿司屋にも土産に買ったはずだが、記憶にない。
一二日、am0:20、ハノイ発VN346号機でセントレアに。
一〇、この遠征で思ったことがある。病後であったことも影響しているが、事前に渡してある食費以外、出費が少なかった。エネルギーと好奇心がイマイチの時には、出ていくものも少ない。老後の生活については、全員が自営業であるが、いつか羽根をたたんだときは、蓄えの取り崩しになり、一抹の不安もある。
しかし、恐らく、出ていくのも少なくなり、帳尻は合うのではないか?
マスコミが宣伝する老後の心配(違うでしょう!年金・介護予算の破綻を心配してでしょうとは、ヤジ馬の声。)から、貯蓄から投資を勧めているが、近頃は、「投資」という言い方は、評判が悪く「資産運用」と言うらしい。そんなものには手を出さずとも、何とかなるだろう。
かつては、夜中に数軒、若い者を引き連れて繁華街を徘徊していた。
しかし、食事の仕方も「いい物を少しだけ」に変わり、夜一〇時になると眠気が襲う。海外旅行に行っても「てんこ盛り」プランを避けるようになった。ブランド物より気に入ったものを身に付けるようになった。何かしていないと取り残されたような焦燥感もなくなってきた。弁護士手帳のスケジュールに余白があるのが耐えられるようになった。
おそらく、一日をゆっくりと過ごせるようになってきたのであろう。横にワイフと愛犬がいれば良いかな、と思うこともある。
それには、ボケないこと、大病をしないこと、ワイフや子供に捨てられないこと、これしかない、との感想を持って、帰国の途についた。
(弁護士)
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