カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

一般2017年05月08日 司法修習と研究(法苑181号) 法苑 執筆者:金澤大祐

 近時、新日本法規出版株式会社で刊行予定の民法改正の実務書について分担執筆する機会を得た。当該実務書の執筆は、司法修習時代からお世話になっている極めて面倒見のよい民事弁護教官より、お誘いいただいたことがきっかけである。当該実務書において私が分担執筆させていただいた項目には、私自身が訴訟代理人として関与した事件で争点となった事項についても含まれており、実務書の執筆が契機となって、民法改正の理解をより深めることができた。そして、それにより民法が私の依頼者にとって有利な方向に改正されることを知り、準備書面でこちらの主張を基礎付ける一つの理由として、民法改正を挙げることができた。また、当該実務書の分担執筆において割り当てていただいた項目の中に、訴訟代理人として関与した事件で現行法下では不当な結果をもたらすものとして、その在り方に疑問を抱いていた事項もあったため、問題状況が具体的にイメージでき、民法改正の意義について身をもって体験することができた。
 私は、現在、司法修習時の実務修習においてお世話になった法律事務所に籍を置かせていただき、弁護士業務を行いつつ、大学で、会社法の研究を行っている。法律事務所で起案をしていたある日、突然、同期の弁護士から電話がかかってきた。その同期の弁護士とは、親しい仲なので、普段は「だいちゃん」と呼ばれたりしているが、その時はなぜか「金澤先生」と呼ばれた。何事かと思ったら、私が曲りなりにも大学で会社法の研究をしているので、会社法に関して分からない事項を教えてほしいとのことであった。このように、突然、同期や修習中にお世話になった先輩の弁護士から会社法について相談を受けることがある。せっかく、私に相談してきてくれたのだから、何か役に立つアドバイスができたらと判例や書籍などの文献調査をしたりする。問題となっている事項が書かれている文献を探し当てたり、妙案が浮かんだりして、よいアドバイスをできることも稀にはあるが、そもそも彼らが分からない事柄であるので、判例や学説が論じていない問題であることが多く、一緒に考え込んでしまい、よいアドバイスができないまま終わってしまうことも多々ある。また、私自身の研究テーマに関係することが問題となっている事案について、相談を受けることもある。その際に、私の研究テーマに関連する事項であると告げると、相談してきた弁護士からは、文献だけではわからない実務上の問題点や、実務をやっているからこそ見えてくる視点の提供を受け、研究について有益な示唆を受けることもある。彼らからの会社法に関する質問に対しては、事件処理に役に立つようなアドバイスをできるように、今後も会社法の研究について研鑽を積んでいきたい。
 弁護士会での委員会の帰り道、修習同期の弁護士と雑談をしながら歩いていたら、いつも明るいその弁護士が一瞬暗い顔をして、会社法の絡む事件があって困っているという相談をしてきたので、その案件について共同で事件を受任したことがあった。その事件やその他先輩弁護士と共同で受任した事件では、中小企業における取締役会や株主総会に立ち会うというものもあった。それらの事件のおかげで、中小企業における取締役会や株主総会がどこでどのような雰囲気で開催されているかを知ることができ、中小企業というものをより具体的にイメージを持つことができるようになった。また、会社法が絡む実際の事件を受任したことで、いわゆる論点となるようなものではなく、普段はあまり気にとめない条文や裁判例が紛争解決に際して、極めて重要な役割を果たしていることについて知ることができ、大変勉強になった。さらに彼らと共同受任した事件の事件処理においては、訴状や準備書面の書き方、証拠の作り方、法廷での立ち居振る舞い、報酬の取り方、弁護士としての心構えなど、弁護士として学ぶべきことが多々あり、とてもよい刺激を受けている。とりわけ、修習時代を一緒に過ごした同期は、私の至らない点を率直に指摘してくれる有難い存在である。その指摘は、的を射たもので、反論ができず、耳の痛いものではあるが、自分自身を客観的に見つめるよい機会であるので、今後も率直に指摘をしていただきたいと思う。また機会があれば、彼らと共同で事件を受任して事件処理にあたりたい。
 どの先生のお言葉か忘れてしまったが、若手のうちは、勉強だと思ってどんな事件でもやる、仕事があるだけありがたいということでしたので、できるだけ多様な事件を受任するよう心掛けている。そのため、会社法と全く関係のない事件についても取り扱うことになり、どこから手をつけてよいのかさっぱり分からず、途方に暮れることがある。また、関係法令について、何度文献を読んでみてもよく分からないこともある。さらに、実務的なことで、書籍に記載がなく、判断に迷うこともある。その際には、事務所のボスや修習のときにお世話になった先輩弁護士はもちろんのこと、司法修習時代の同期に、相談したり、共同で事件を受任してもらったりしている。何年も解決しないで困っていた案件について、酒席で先輩弁護士に相談したところ、解決の糸口が見つかったことや、私一人では、解決が困難と思われる事件を同期が共同受任してくれたことにより、何とか解決できたこともあった。彼らは、それぞれの業務分野が渉外や企業法務、消費者事件、労働事件、交通事故事件、家事事件、刑事事件等多種多様であり、私自身にはない知識や経験を有している。今後も、まずは自分自身で調査し、事件処理にあたるが、それでも分からなかったり、解決できなかったりした場合には、彼らに教えを乞おうと思う。
 恥ずかしい話ではあるが、修習時代には、先輩弁護士や同期の弁護士と面識を持てたことの有り難さについて十分に感じていなかった。弁護士としては七年目の今日においては、まだまだ若輩者ではあるが、多少の実務経験を得て、修習時代に得た人間関係は、大変貴重な財産であると思うに至っている。修習の同期や先輩弁護士との関係は、これからも大事にしていきたい。また、今後も研究活動を行いつつ、弁護士としての業務も行っていきたいと考えている。現在のところ、弁護士としての実務と研究活動によってシナジーが生じているかどうかは不明だが、将来的には何らかのシナジーが生じるように、研究と実務の双方を行っていきたい。

(日本大学大学院法務研究科助教・弁護士)

法苑 全111記事

  1. 裁判官からみた「良い弁護士」(法苑200号)
  2. 「継続は力、一生勉強」 という言葉は、私の宝である(法苑200号)
  3. 増加する空き地・空き家の課題
     〜バランスよい不動産の利活用を目指して〜(法苑200号)
  4. 街の獣医師さん(法苑200号)
  5. 「法苑」と「不易流行」(法苑200号)
  6. 人口減少社会の到来を食い止める(法苑199号)
  7. 原子力損害賠償紛争解決センターの軌跡と我が使命(法苑199号)
  8. 環境カウンセラーの仕事(法苑199号)
  9. 東京再会一万五千日=山手線沿線定点撮影の記録=(法苑199号)
  10. 市長としての14年(法苑198号)
  11. 国際サッカー連盟の サッカー紛争解決室について ― FIFAのDRCについて ―(法苑198号)
  12. 昨今の自然災害に思う(法苑198号)
  13. 形式は事物に存在を与える〈Forma dat esse rei.〉(法苑198号)
  14. 若輩者の矜持(法苑197号)
  15. 事業承継における弁護士への期待の高まり(法苑197号)
  16. 大学では今─問われる学校法人のガバナンス(法苑197号)
  17. 和解についての雑感(法苑197号)
  18. ある失敗(法苑196号)
  19. デジタル奮戦記(法苑196号)
  20. ある税務相談の回答例(法苑196号)
  21. 「ユマニスム」について(法苑196号)
  22. 「キャリア権」法制化の提言~日本のより良き未来のために(法苑195号)
  23. YES!お姐様!(法苑195号)
  24. ハロウィンには「アケオメ」と言おう!(法苑195号)
  25. テレビのない生活(法苑195号)
  26. 仕事(法苑194号)
  27. デジタル化(主に押印廃止・対面規制の見直し)が許認可業務に与える影響(法苑194号)
  28. 新型コロナウイルスとワクチン予防接種(法苑194号)
  29. 男もつらいよ(法苑194号)
  30. すしと天ぷら(法苑193号)
  31. きみちゃんの像(法苑193号)
  32. 料理を注文するー意思決定支援ということ(法苑193号)
  33. 趣味って何なの?-手段の目的化(法苑193号)
  34. MS建造又は購入に伴う資金融資とその担保手法について(法苑192号)
  35. ぶどうから作られるお酒の話(法苑192号)
  36. 産業医…?(法苑192号)
  37. 音楽紀行(法苑192号)
  38. 吾輩はプラグマティストである。(法苑191号)
  39. 新型コロナウイルス感染症の渦中にて思うこと~流行直後の対応備忘録~(法苑191号)
  40. WEB会議システムを利用して(法苑191号)
  41. 交通事故に基づく損害賠償実務と民法、民事執行法、自賠責支払基準改正(法苑191号)
  42. 畑に一番近い弁護士を目指す(法苑190号)
  43. 親の子供いじめに対する様々な法的措置(法苑190号)
  44. 「高座」回顧録(法苑190号)
  45. 知って得する印紙税の豆知識(法苑189号)
  46. ベトナム(ハノイ)へ、32期同期会遠征!(法苑189号)
  47. 相続税の申告業務(法苑189号)
  48. 人工知能は法律家を駆逐するか?(法苑189号)
  49. 土地家屋調査士会の業務と調査士会ADRの勧め(法苑189号)
  50. 「良い倒産」と「悪い倒産」(法苑188号)
  51. 民事訴訟の三本の矢(法苑188号)
  52. 那覇地方裁判所周辺のグルメ情報(法苑188号)
  53. 「契約自由の原則」雑感(法苑188号)
  54. 弁護士と委員会活動(法苑187号)
  55. 医療法改正に伴う医療機関の広告規制に関するアウトライン(法苑187号)
  56. 私の中のBangkok(法苑187号)
  57. 性能規定と建築基準法(法苑187号)
  58. 境界にまつわる話あれこれ(法苑186号)
  59. 弁護士の報酬を巡る紛争(法苑186号)
  60. 再び大学を卒業して(法苑186号)
  61. 遺言検索システムについて (法苑186号)
  62. 会派は弁護士のための生きた学校である(法苑185号)
  63. 釣りキチ弁護士の釣り連れ草(法苑185号)
  64. 最近の商業登記法令の改正による渉外商業登記実務への影響(法苑185号)
  65. 代言人寺村富榮と北洲舎(法苑185号)
  66. 次世代の用地職員への贈り物(法苑184号)
  67. 大学では今(法苑184号)
  68. これは必見!『否定と肯定』から何を学ぶ?(法苑184号)
  69. 正確でわかりやすい法律を国民に届けるために(法苑184号)
  70. 大阪地裁高裁味巡り(法苑183号)
  71. 仮想通貨あれこれ(法苑183号)
  72. 映画プロデューサー(法苑183号)
  73. 六法はフリックする時代に。(法苑183号)
  74. 執筆テーマは「自由」である。(法苑182号)
  75. 「どっちのコート?」(法苑182号)
  76. ポプラ?それとも…(法苑182号)
  77. 「厄年」からの肉体改造(法苑181号)
  78. 「現場仕事」の思い出(法苑181号)
  79. 司法修習と研究(法苑181号)
  80. 区画整理用語辞典、韓国憲法裁判所の大統領罷免決定時の韓国旅行(法苑181号)
  81. ペットの殺処分がゼロの国はあるのか(法苑180号)
  82. 料理番は楽し(法苑180号)
  83. ネット上の権利侵害の回復のこれまでと現在(法苑180号)
  84. 検事から弁護士へ― 一六年経って(法苑180号)
  85. マイナンバー雑感(法苑179号)
  86. 経験から得られる知恵(法苑179号)
  87. 弁護士・弁護士会の被災者支援―熊本地震に関して―(法苑179号)
  88. 司法試験の関連判例を学習することの意義(法苑179号)
  89. 「スポーツ文化」と法律家の果たす役割(法苑178号)
  90. 「あまのじゃく」雑考(法苑178号)
  91. 「裁判」という劇薬(法苑178号)
  92. 大学に戻って考えたこと(法苑178号)
  93. 生きがいを生み出す「社会システム化」の創新(法苑177号)
  94. 不惑のチャレンジ(法苑177号)
  95. タイ・世界遺産を訪ねて(法苑177号)
  96. 建築の品質確保と建築基準法(法苑177号)
  97. マイナンバー制度と税理士業務 (法苑176号)
  98. 夕べは秋と・・・(法苑176号)
  99. 家事調停への要望-調停委員の意識改革 (法苑176号)
  100. 「もしもピアノが弾けたなら」(法苑176号)
  101. 『江戸時代(揺籃期・明暦の大火前後)の幕府と江戸町民の葛藤』(法苑175号)
  102. 二度の心臓手術(法苑175号)
  103. 囲碁雑感(法苑175号)
  104. 法律学に学んだこと~大学時代の講義の思い出~(法苑175号)
  105. 四半世紀を超えた「渉外司法書士協会」(法苑174号)
  106. 国際人権条約と個人通報制度(法苑174号)
  107. 労働基準法第10章寄宿舎規定から ディーセント・ワークへの一考察(法苑174号)
  108. チーム・デンケン(法苑174号)
  109. 仕事帰りの居酒屋で思う。(健康が一番の財産)(法苑173号)
  110. 『フリー・シティズンシップ・クラス(Free Citizenship Class)について』(法苑173号)
  111. 法律という窓からのながめ(法苑173号)

関連カテゴリから探す

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索