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一般2020年09月08日 新型コロナウイルス感染症の渦中にて思うこと~流行直後の対応備忘録~(法苑191号) 法苑 執筆者:秦周平

 本稿を執筆している二〇二〇年(令和二年)六月二五日現在、国内の新規感染者数九六名(前日比三九名増)、累計感染者数一八、一一〇名(うち死亡者数九六八名)。
 五月二一日に大阪府(筆者は大阪弁護士会に所属している)が緊急事態宣言を解除し、約一か月経ったが、連日、感染関連の報道が続いており、第二波も予断を許さない。
 二〇二〇年は、まさに新型コロナウイルス感染症(COVID―一九)の年である。
 法苑に寄稿するにあたり、題材に悩んだが、いつか読み返したときに、二〇二〇年を境にして仕事や生活がどう一変したかを思い出すのも一考かと、備忘を兼ねて、流行直後に身の回りに起こった出来事や感じたことを徒然に書き記すこととする。

一 新型コロナの経過
 一月一四日、小生は、弁理士、税理士と共著で新刊書籍「契約書リーガルチェックのポイント-事例でみるトラブル条項例-」のゲラ校閲を完了し、新日本法規出版の河村氏にゲラ一式を提出した。四月に発刊したら、執筆陣と北新地のすし屋で打ち上げをしようと考えていた。
 当時は、前年の消費税増税の影響は多少あったものの、夏の東京オリンピック開催を控え、また外国人旅行客増加によるインバウンド景気もあって活況であった。大阪中心部の百貨店や家電量販店、京都をはじめ各地の観光スポットも中国人旅行客の対応に追われていた。
 私が所属する大阪弁護士会の会派はちょうど一〇〇周年を迎え、五月には(前年にドラマ「ノーサイド」で話題になった)ラグビー元日本代表の広瀬俊朗氏を迎えた記念講演、七月にはロシア(モスクワ、サンクトペテルブルグ)への記念旅行を予定していた。六月は隣接士業の先生方と研修旅行(と称した)ハワイ島でのゴルフ旅行も予定し、ハワイアン航空のチケットも手配済であった。
 ところが、である。
二月 四日 クルーズ船 「ダイヤモンド・プリンセス号」の清水港寄港中止
二月二四日 政府の専門家会議 「今後一~二週間が瀬戸際」との見方を示す
二月二五日 サッカーJリーグ 試合の延期を発表
二月二六日 政府 今後二週間のスポーツ、文化イベントの中止や延期を要請
二月二七日 政府 三月二日から春休みまで臨時休業を要請
二月下旬頃 トイレットペーパーやティッシュなどが品薄になるといったデマ情報が拡散し、買い占めが報道される
三月 三日 政府 「雇用調整助成金」の特例対象拡大
三月 九日 プロ野球開幕の延期決定
三月一〇日 政府 「緊急事態宣言」を可能にする法案を閣議決定
      専門家会議 「三つの密(密閉、密集、密接)」を避けるようにとの提言
三月一一日 選抜高校野球が中止(五月には夏の全国高校野球も中止)
三月一三日 新型コロナ特措法が成立
三月二四日 東京オリンピックの延期決定
三月二八日 イタリアで死者一万人超、スペインで死者五〇〇〇人超
三月二九日 志村けん氏(コメディアン)死去
四月 七日 政府 七都府県へ緊急事態宣言を発令
四月一六日 政府 緊急事態宣言を全都道府県に拡大(当初は五月六日まで)
      政府 特別定額給付金(全国民に一律一〇万円)支給を発表
四月一七日 政府 持続化給付金(中小企業は最大二〇〇万円、個人事業者は最大一〇〇万円)の支給決定
四月二三日 岡江久美子氏(女優)死去
四月二四日 小池百合子都知事 五月連休に向けて「STAY HOME週間」
      スーパーマーケットの混雑回避のため入場制限や回数制限を要請
五月 六日 吉村洋文府知事 自粛解除に向けた大阪独自基準「大阪モデル」を発表

 傍線部のほか連日のように「クラスター(集団感染)」「オーバーシュート(感染爆発)」「PCR検査」「東京アラート」「ロックダウン(都市封鎖)」「ソーシャルディスタンス」といった聞きなれないカタカナ用語が連呼された。不謹慎ではあるが、年末恒例の流行語大賞は激戦となるであろう。日本国民の多くが開封しないままであろう「アベノマスク」も捨てがたい。ちなみに小生は、日本漢字能力検定協会主催の今年を表す漢字一文字は「禍」であると予想している。
 さて、小生の仕事や生活がどう変わったか振り返ってみたい。

二 新型コロナ禍に起因する働き方の改革
 二月末、安倍首相の自粛要請を受けて、小生の事務所も、時短勤務、時差出勤、在宅勤務(リモートワーク)の検討に入った。特に、弊所には妊娠中の法律事務員が在籍したため、慎重かつ迅速な対処が必要と判断した。大阪府下では三月中旬には一旦自粛ムードは収まるようにも見えたが、その後状況は悪化し、四月の緊急事態宣言発令後は、大阪、兵庫、京都の裁判所が全ての裁判期日を取り消すなど極めて異例の事態となり、更に緊迫した状況となった。
 三月は、通勤ラッシュ(密)の時間帯を避けるため、営業時間(の前後)を短縮するとともに、時短勤務を導入したが、緊急事態宣言を受けた四月は、原則、事務員を一名体制とし、週一回勤務とした。弁護士は各自判断であったが、小生はできる限り自宅執務を心がけた。
 生々しいが、以下は、小生が実際に行った所員への通達メールである。読み返すと、当時の緊迫した状況が伝わってくる。

 (三月一日)
 明日三月二日(月)から三月一三日(金)まで二週間、一時的に、事務局の勤務時間を短縮することにします。
 通勤ラッシュの時間帯を避けることで、コロナウイルス感染拡大を回避することが目的です。
 勤務時間:午前一〇時から午後四時まで(昼休憩五〇分)
 事務所の営業(電話、接客対応)時間も、原則、午前一〇時から午後四時までとします。
 弁護士は各自判断としますが、支障のない限り、通勤ラッシュの時間帯は避けるようご協力をお願いします。
 なお、この一週間で感染状況が収束するなら、通常の営業時間に戻します。
 感染状況が悪化するなら、臨機応変に対応したいと思います。
 マスクだけでは完全には感染予防にならないとも聞いています。
 出社時や外出から戻ったら、①手洗いと②うがい、③アルコール消毒(ビル一階エントランス、各階トイレ、所員通用口にあります)を徹底するようお願いします。
 事務局は、時短営業をアナウンスする留守電の設定をお願いします。
 お手数ですが、受信確認のため、このメールに返信をお願いします。

 (四月八日)
 既に一部の方にはお伝えした通り、政府の緊急事態宣言を受けて、九日(木)から四月三〇日(木)までの勤務体制をお伝えします。なお、状況に応じて、変更する場合があります。
 前例のない取組みなので、もし気になることがあれば私までお声がけください。
【全体】

・事務所の営業時間は、当面の間、平日午前一〇時から午後四時まで(昼休は正午から一二時五〇分まで)とする。
・感染防止のため、当面の間、接客時の給茶は、耐熱用の紙コップを使用することとする。
・弁護士も、依頼者にお断りを入れた上、対面でなく一つ席をずらして座るなど一定の距離を取るよう心掛ける。
・ときどき打合せ中にマスクを外して話すお客様もいるので、マスク着用をお願いする(現在の情勢に照らせば、お客様にも失礼に当たらないと思っています)。
【事務局】
・事務局は、原則一名体制とし、午前一〇時から午後四時までの勤務とする。
・事務局は、出勤しない日は「休業」又は「有休」とする。特例的に、四/三〇までの有給休暇は優先的に消化を認める。
・担当事務が休業する場合、出勤した人が、代わって法律事務を行う。
・一名体制のため、一時外出時は(弁護士不在なら)留守電設定を認める。
・給茶時などは適宜、在室する弁護士に電話対応をお願いする。
【弁護士】
・執務は各自判断とする。
・担当事務が休んでいるときは、当日出勤している事務局にお願いする(適宜フォローをお願いします)。
・事務局一名体制のため、在室中は(可能な限り)電話対応をお願いします。
・打合せや相談の予約を受けるときは、できる限り、午前一〇時から午後四時までの間でお願いします。
【お願い】
 所内で感染者が発生したら、直ちに営業停止になるおそれがあり、業務に著しい支障が生じるおそれがあります。
手洗い、うがい、手差し消毒の更なる徹底をお願いします。
・休業日、休日・祝日であっても、それぞれが自覚をもって、感染リスクの高い行為は厳に慎むようお願いします。
・不在時に連携し、仕事を適切に分担するため、これまで以上にコミュニケーションに努めるようにお願いします。
・咳、発熱の症状がなくても感染するケースがあり、感染を完全に防ぐことはできません。もし、嗅覚や味覚に異常を感じたら、早めに医師に受診してください。感染が疑われるときは、必ず私まで教えてください。

 さて、(一部の大手事務所を除き、個人事務所の)弁護士の仕事は多岐にわたる。大まかに分類すると、①接客応対(面談、電話、電子メール)、②裁判例、文献等の法律調査、③書面作成、④公的機関(裁判所、ADR、労働委員会、公証役場など)への対応、⑤法律事務所の運営(預り金の管理、アソシエイト弁護士・法律事務員の教育指導、経理処理など)、⑥弁護士会の会務や委員会活動になるであろう。
 そして①から⑥が占める割合は、弁護士の経験年数や法律事務所での立場(経営パートナーか勤務弁護士か)によって自ずと異なる。私の仕事は、①、⑤、⑥が中心だが、三月下旬以降、依頼者も面談(事務所での会議)を控えたため、自宅で執務し、主に電子メールでのやり取りが中心となり、必要に応じて書斎にてZoomを使用したウェブ会議に参加した。
 ウェブ会議を使ってみて、顧問先など継続的な付き合いがあり、企業の法務担当者であれば意思疎通に大きな支障はなかった。むしろ、弁護士会の会合の多くは(綱紀・懲戒などシリアスなものを除けば)ウェブ会議を併用することで十分事足りるのではないかと思っている。しかし、個人のお客様との打合せや、事件を受任する際の基本方針の確認は、これまで通り、直接面談し、こちらの説明を理解されたのか相手の目を見て反応を確認する必要があると考える。ましてや事件の相手方との交渉の場面は今後も変わらないであろう。
 裁判対応については、期日が取り消されたため、六月初旬まで裁判所に行くことはなかったが、奇しくも昨今、我々の業界では、裁判の迅速化等を目的として訴訟のIT化の導入が進められている。京都地裁と神戸地裁ではフェーズ1(ウェブ会議等を利用した争点整理の新たな運用)が始まるなど、新型コロナ禍を受けて、一気にIT化が加速しそうである。

三 消えた三か月間を振り返って
 令和二年の干支は「庚子」である。「庚(かのえ)」は、結実の後の転身を示し、「子(ね)」は、賢明であることや新しい始まりを意味すると言われている。
 思い返せば、勤務弁護士として駆け出しの頃は、とにかく事務所に居る時間が長かった。平日は毎日午前様、土日も事務所に出て書面を起案していた。
 しかし、四八歳(年男である)を迎え、そして新型コロナ禍を契機として、私自身の働き方(というより、生き方)が大きく変わろうとしている。今まさに、本稿を執筆している場所も自宅である。
 依然として不便、不自由な生活が続くが、五年後、一〇年後に振り返って、生き方を見直して賢明であった、と思えるよう、焦らずに、与えられたご縁や仕事(法苑の原稿執筆も含まれる)に取り組むことで、始まりの年としたい。
 先日、顧問先の社長が三か月ぶりに来所したが、「三か月間が消えた。」とぼやいていた。休校を受けてステイホームで家事育児に追われた妻も「三か月間の記憶がない。」と言っていた。本稿を執筆するために記憶を辿ると、世の中では様々な出来事があったのだが、私自身もこの三か月間の詳細を思い出すことが難しい。
 私自身は、弁護士になって初めて(といっても過言ではない)穏やかな生活を過ごした。夜の接待会食は無くなり、行きつけの店を応援するため食事はテイクアウトを利用した。通っていたスポーツクラブは休館となり、運動不足が続いているし、休日に郊外へ外出することも極力控えている。
 仕事も日常生活も、心も体も、何某かの刺激(良いストレス)があるから、記憶に残るし、心身が活性化するのだろうと感じる。
 本稿が掲載予定の九月頃には、Go Toキャンペーンで国内旅行ぐらいは解禁したいが、おそらくは依然として予断を許さない状況が続くだろう。しかし、バブル景気の崩壊やリーマンショックを経験した世代として、今回の国難ともいえるコロナ禍も前向きな気持ちで乗り越えたい。

(弁護士)

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