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一般2023年01月20日 市長としての14年(法苑198号) 法苑 執筆者:川合善明

1 市長に就任して

 平成二一年二月八日から、川越市の市長を務めている。令和五年一月で就任一四年となる。

 私は、修習期は三一期で、昭和五四年の登録時から東京弁護士会に所属していたが、平成三〇年に埼玉弁護士会に登録替えした。

 現在、登録は維持しているが、時間的余裕が無いので、弁護士業務は全く行っていない(会務も全く出来ない状態である。)。

 弁護士時代はマイペースで仕事をしていたが、市長になってからは極めて多忙になり、生活が激変した。ただ、都内の事務所に通うのに往復で約三時間かかっていたのが、市役所へは徒歩一七、八分、混雑していなければ車で四~五分で行けるので、市長になってから時間的にタイトになったという感覚はない。

 一四年前の就任初日から、市役所へは、朝は原則として徒歩で行っている。

 市役所へ歩く道は、市道〇〇〇一号線、一本である。この道は、小学校、高校へ通った時にも歩いた道である(無論、昔の砂利道は整備され、現在は歩道のある舗装道路になっている。)。

 毎日の仕事は、三〇~四〇件回って来る決裁書類の処理、職員からの相談(判断を求められる)、要望・陳情の人たちとの面談対応、庁議等の内部会議の主宰、市の関連団体の役員会等への出席、一部事務組合(川越市は隣の川島町と「川越地区消防組合」を組織している)の事務処理、年四回の定例会や必要に応じて招集する臨時会での市議会や消防組合議会への対応等様々である。

 期数を重ねると、県市長会の役職や、広域連合の仕事も加わって来る。毎日毎日、本当に多くの仕事がある。

 加えて、土曜日曜にも各種イベントや大会、会合がある。一月二月は市内各種団体の新年会、五月六月には定時総会・懇親会へ招かれ、七月八月には各地域の盆踊り大会への招待がある。これら様々な会合、イベントは、市民の皆様と触れ合い、直に話ができる場であり有益な知識や情報が得られる大切な機会であるので、日程調整しながら可能な限り出席してきた。各種イベントや会合へ出席するのも、市長の大事な仕事なのである(新型コロナウィルス感染拡大が始まった令和二年春以降、令和四年秋まで、各種イベント、会合等は殆ど全てが中止又は書面開催となり、毎日自宅で夕食が食べられた。これは市長にとって「異常事態」である。)。

 このような激務のなか、健康を維持するため心掛けていることは、歩くことである。日頃から階段を使い、近くへの移動は公用車を使わず、機会を見つけては歩いている。それに加え、昼食後たとえ一〇分でも横になって昼寝をすること。この二つは一四年間実行しており、確かなプラス効果を感じている。

 昼寝の効用は、第二九代全国市長会会長の松浦正人元防府市長も退任の挨拶の中で強調されていた。

 執行部と車の両輪に例えられる議会については、学校で学んだ以上の知識が無い状態で市長に就任したので、当初、大いに戸惑った。父は、私が幼いころから川越市議会議員をし、市長も務めたが、家では仕事の話は全くしなかったし、私も若い頃は地元の市政に殆ど関心が無かったので、議会については、就任後暫くは驚き戸惑うことがかなりあった。

2 川越・まちの歴史

 川越市は、都心から三〇キロ圏に位置し、古くから埼玉県南西部地域における産業、経済、文化の中心的なまちとして発展してきた。現在の人口は三五万三〇〇〇人余。商業・工業・農業がバランスよく発展し、多くの観光客が訪れる歴史と伝統のある観光都市でもある。

 川越は、城下町である。川越城(河越城)は、長禄元年(一四五七年)太田道真、道灌親子によって築かれた城が基になっている。

 徳川幕府の時代になってから、川越は江戸の北の守りという位置づけから、城主は徳川の信頼が厚い親藩、譜代の大名が封され、歴代藩主は八家二十一人に及ぶ。多くの人が知っている殿様としては、坂井忠勝(寛永四年(一六二七年)から七年間)、松平信綱(寛永一六年(一六三九年)から二三年間)、柳沢吉保(元禄七年(一六九四年)から一〇年間)などが川越城主であった。ただし、柳沢吉保は川越藩主であった一〇年間、川越藩の仕事は全て家来に任せ、一度も川越城に入ったことは無かったという。

 川越城の建物のうち、江戸末期に造られた本丸御殿が現在も残っている。本丸御殿が残っているのは、高知と川越だけである。

 新河岸川の舟運と川越街道により江戸とつながり、江戸に近いことから、川越は周辺地域の産物を集めて江戸に送る商業が大いに栄えた。江戸で売られた川越のサツマイモは、「九里(栗)四里(より)美味い十三里」(十三里とは、川越と日本橋の距離を表している)と言われ、庶民に広く知れ渡ったという。今日でも市内の店ではサツマイモを使った多種多様な菓子が売られている。

3 観光都市への展開

 私は、実務修習地の長野市に一年四か月住んだ以外は、生まれた時から今日まで川越に住んでいる。私が高校生であった昭和四〇年代初めころは、住人の流れが、駅がある市街地南部に移ってしまい、旧市街地北部に位置する蔵の町並みがある一番街や菓子屋横丁周辺は、かなり寂しい状態であった。

 その蔵造りの町並みが、川越市の観光の中心となったのは、昭和四〇年代後半から地元の商店主や地域の人が中心となり、行政も協力し、古い町並みを残して地域を活性化する方策を真剣に考え実践してくれたお陰である。

 平成一八年、蔵造りの町並みがある一番街周辺地域は、周囲の環境と一体をなして歴史的な風致を形成している伝統的な建造物群を保護する制度である「伝統的建造物群保存地区」に指定された。江戸城から移築された三代将軍徳川家光公誕生の間などの重要文化財が多く存在する喜多院と並んで、一番街は、現在、川越で最も人が集まる観光エリアとなっている。

 弁護士になりたての頃、勤務する事務所の仕事として川越市内の強制執行事件に途中から関わった。一番街の蔵造り建物及びその敷地に関しての確定判決に基づく強制執行事件で、債務名義は「建物収去、土地明渡」であった。「建物収去」であるのに、執行は、なぜか収去目的物である蔵造りの建物を残し建物と土地を明け渡してもらう方針で、執行担当の事務局員が中心になって進めていた。依頼者に「何故、判決通りに建物を壊してしまわないのか」と聞くと、「今、蔵の保存運動をしている自分が蔵を壊すわけには行かない。」との返事であった。

 当時の私は、川越に住んでいながら、一番街の住民が蔵造りの保存活動を進めていることを全く知らなかった。そもそも、「まちづくり」に対する関心と視点は、当時の私には全くなかった。「古びた蔵造り建物など、債務名義通り取り壊してしまえば、執行は直ぐに終わるのに。」とだけ考えていた。

 市長になって、「まちづくり」や都市景観の重要さ、当時の依頼者や一番街の住人たちの取組みが、先駆的な「まちづくり運動」として極めて高い評価を得た取組みであることを初めて知った(執行事件は、時間がかかったが、私が事務所を独立して事件から離れた後、依頼者の希望に沿った決着がつき、その蔵造り建物は一番街の町並みを形成する蔵造りとして大いに活用されている。)。

4 市制一〇〇周年とこれから

 川越市は、大正一一年(一九二二年)一二月一日、埼玉県下で最初に市制を施行し、昨年が市制施行一〇〇周年の年であった。

 先人から受け継いだ文化や歴史を再認識するとともに、新たな一〇〇年へと踏み出す年になるよう、昨年は様々な記念事業を行った。

 松平信綱が城主であった慶安元年(一六四八年)に始まり、国の重要無形文化財に指定され、山車行事がユネスコの無形文化遺産に登録されている川越祭りは、コロナ禍により、令和二年、三年と中止を余儀なくされた。昨年は、市制施行一〇〇周年を記念し市内にある二九台の山車全てが通りを曳行され、三年ぶりに、例年通りの形で開催することが出来た。一〇月一五日、一六日両日とも快晴に恵まれ、コロナ以前と同じくらいの賑わいに、町中が盛り上がった。

 川越市の現在は、先人たちの英知と努力の積み重ねの賜物である。少子高齢化社会になり、財政状況が厳しくなっている等の諸課題があるが、先人たちの築いてきた歴史と伝統をしっかり継承しつつ、「住んでみたいまち、住み続けたいまち」の更なる充実・進展に向け、全力投球を続けている。

〔参考文献〕

小泉功監修 図説「川越の歴史」郷土出版社

川越大事典 図書刊行会

(弁護士・川越市長)

法苑 全111記事

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