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一般2017年01月10日 ペットの殺処分がゼロの国はあるのか(法苑180号) 法苑 執筆者:渋谷寛

 輪廻転生、今度はどんな何動物に生まれ変わるのでしょう。そんなことを考えるとむやみに生き物を殺したくはありません。ところが、我が国では、犬や猫が年間約十万匹も殺処分(動物の意志にかかわらず人の判断により動物の命を絶つこと)されているという現実があります。食用としての牛・豚・鶏等の産業動物のと殺も現実にはありますが、ペットとして飼育されている犬猫が殺されてしまうのはあまりにも忍びなく思います。
 わが国での現状は、迷子になり飼い主のわからないペット、飼い主が飼育困難となったペットたちを動物愛護センターが引き取ります。引き取られると、飼い主がいると思えるペットの場合は、飼い主を捜します。飼い主が飼いきれず持ち込んだ場合を含めて里親を探します。最近ではインターネットを活用して、飼い主や里親を探しています。それでも貰い手の見つからないペットは一週間ほどで殺処分されてしまいます。飼い主が、飼いきれず持ち込んだ場合には、数日で殺処分されてしまうこともあるようです。
 動物に関する基本法ともいえる「動物の愛護及び管理に関する法律(以下、「動物愛護管理法」)は、平成二四年九月に改正を行い、「殺処分がなくなることを目指して」います(同法三五条)。環境省でも平成二五年一一月に「人と動物が幸せに暮らす社会の実現プロジェクト」、いわゆる「牧原プラン」を立ち上げ、「殺処分をできる限りゼロにしたい」、「殺処分をなくすというゴールに向か」うと宣言しています。このような努力の結果、殺処分数はここ数年減少傾向にあります。
 動物愛護管理法では、飼い主に「終生飼養」の大切さを自覚させ、終生飼養の実現を努力義務としています。平成二四年の改正により、安易に行政に引取りを求めることはできなくなり、動物愛護センターへ持ち込む前に、親戚・友人など飼育を継続してくれる人を探す努力をしなくてはならなくなりました。「飽きたから」、「面倒を見るのが煩わしくなったから」、「病気がちになったから」等の安易な理由では、行政は引取りを拒絶することが出来るようになったのです。その結果、行政への引取件数は減少しています。引取り数の減少と里親探しが功を奏し、殺処分ゼロの市や区も出てきているようです。
 飼い主も、飼い始めるときに、その動物の一生涯を適切に面倒見てあげられるかどうか、慎重に判断してから飼い始めるべきでしょう。「引っ越し先でペットが飼えないから」、「家族の中に動物アレルギーの人がいたから」、「自らが年老いたから」等の理由で飼えなくなるということは避けたいものです。
 犬の引取り数は顕著に減少していますが、去勢や避妊の普及していない猫では、大量の子猫が生まれ、貰い手を探しても探しきれず行政に引き取られる数はそれほど減少していないようです。特に猫を安易に増やさないようにする方策を検討する必要があるでしょう。
 我が国の行政による殺処分の方法は、対象となる数匹の犬猫のいる小部屋へ二酸化炭素を注入する方法がほとんどです。徐々に酸素が薄くなり、呼吸が苦しくなり、数分の間苦しみもがいて死んでゆきます。即死ではなく、死に至るまでに精神的にも肉体的にも苦痛を伴います。犬猫は、その際泣き叫ぶそうです。その鳴き声は、他の部屋で順番を待っている犬猫にも聞こえていることでしょう。皮肉なことに、そのガス室は「ドリームボックス」と呼ばれているそうです。
 ところで、ペットの先進国とされているドイツでは殺処分がゼロだという報道がなされたことを聞いたことがあります。
 『人間に殺されることがない、ペットにとっての理想的な国?』
 本当にそんな国があるのか疑問に思い、ドイツでの現状を調べてみました。
 ドイツでは、行政機関がペットを保護するのでなく、民間の動物保護団体がペットを引き取ります。「ティアハイム」と呼ばれている動物保護施設です。ティアハイムとは、ドイツ語で「動物の家」という意味です。ベルリンやフランクフルトなど多数の都市にティアハイムがあり、古い施設は一九世紀の中頃からあります。寄付、遺言、補助金、譲渡手数料、会員の会費などを財源として運営しています。ここでも飼い主が飼えなくなった動物などを引き取り、保護しています。動物の引取りを申し込んできた飼い主に対しては、引き続き飼育するように、里親を探すようにと説得をするそうです。しかし、仮に引き取らないと飼い主が動物を虐待する、山に捨てる、殺処分することも危惧されるので無理に引取りを拒絶することはしないそうです。
 しかし、引取りをした後は、飼い主や里親が見つかるまで保護し続け、原則として殺処分はしないそうです。怪我をしている動物は治療して、里親が見つかるよう活動を継続します。中には、里親を探し続け一九年間も保護されている犬もいるそうです。
 規制の厳しいドイツでは犬猫の生態販売、いわゆるペットショップはほとんどありません。ペットを飼い始めようと思い立ったときには、まずはティアハイムへ行き、気に入ったペットを探すという慣習があるのです。仮にペットショップへ買いに行っても、店員からは、「まずはティアハイムで探してみたらいかがですか?」と、勧められることもあるようです。ドイツでは、「ペットショップでペットを買う」という発想の前に、「ティアハイムからペットを譲り受ける」という慣行が確立しているといえるでしょう。こうすれば、里親が現れる確率が高くなります。こうして里親が見つかるまで保護し続けるシステムが成り立つのだと考えられます。
 ところが、実際には殺処分はゼロではないそうです。殺処分せざるを得ない状況があるのです。それは、生き続けることが苦痛でしかないと思えるペットの場合です。例えば、末期がんで苦しんでいる、不治の伝染病、高齢のため足腰が立たなくなったペットは殺処分の対象にされるのです。これらのように苦痛を伴いながら生かし続けることは、動物虐待に当たるという考え方に基づくからだそうです。
 ドイツでの殺処分の方法は、獣医による安楽死です。これは苦痛を与えずに死に至ります。例えば、飼い主に抱き抱えてもらいながら、注射を打ち最期を看取ることもあるそうです。
 殺処分をするための部屋や二酸化炭素を注入する部屋自体、存在しません。したがって、二酸化炭素でペットを殺処分することはゼロと言えるのでしょう。一般的に、ドイツにおいて殺処分がゼロと表現されるのは、こういう考え方からなのでしょうか。
 しかし、ペットの先進国であるドイツでも、厳密にはペットの殺処分ゼロという実態には達していないことが伺えます。
 我が国では、少しでも長く生きさせてあげたいと思う動物愛護家の考え方があるのに対して、ドイツでは苦痛しか味わえないような状況になったら、苦痛から解放するため早めに安楽死させることが動物の福祉に資する、動物のためであるという考え方が一般的で、ペットに対する死生観に大きな違いがあるようです。
 ドイツでは、安楽死を含む殺処分ゼロが理想とは考えていないようです。動物福祉の為にあえて安楽死させるという現象はなくならないでしょう。ドイツにおいて殺処分ゼロが目標とされているとは感じませんし、また殺処分ゼロが実現するとも思えません。
 人が動物(ペット)を殺すことのない、殺処分ゼロの国はこの地球上のどこかにあるのでしょうか。私にはまだ見出せていません。

(弁護士・司法書士)

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