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一般2021年09月22日 デジタル化(主に押印廃止・対面規制の見直し)が許認可業務に与える影響(法苑194号) 法苑 執筆者:伊藤浩

1 現在に至る経緯
 令和二年四月二七日経済財政諮問会議において、コロナウイルス感染症の対応として、テレワーク、リモートワークが推進されたが、書面主義、押印原則、対面主義が阻害要因になっているとの指摘を受け官民のこれまでの規制・制度や慣行の見直しの検討指示がされた。
 上記を受け五月一八日に開催された規制改革推進会議において、見直しの考えが示されたうえで、各省庁に対応を求める方針が示された。
 押印原則の見直しの基準等を示したうえで、各省庁に対して緊急対応としての取り組みを実施する料文書が発出された。
 さらに七月二日に規制改革推進会議から提出された意見書においては、コロナ感染防止の観点からの緊急対応とともに恒久的な制度的対応として、年内に「具体的基準」に照らして必要な検討を行い、法令・告示・通達等の改正等を行うよう求められた。
 七月八日には、内閣府、内閣官房、規制改革推進会議及び四経済団体において共同宣言が発出された。
 七月一七日には、規制改革実施計画において上記方針が閣議決定され、骨太の方針二〇二〇においては
「③ 国・地方を通じたデジタル基盤の標準化の加速 行政手続のオンライン化、ワンストップ・ワンスオンリー化を抜本的に進める。関係府省庁は、今般の感染症対応における各種支援策のオンラインによる申請・支給状況を点検し、原則として対面や押印の不要化、申請書類の可能な限りの縮減、法人データ連携基盤(Gビズコネクト)による情報連携等を加速する。特に、雇用調整助成金、運転免許証に係る運転可能期間の延長等について、電子申請等による手続の簡素化・迅速化の一層の促進に取り組む。建設業許可の電子申請化など関係手続のリモート化を進める。」
とされた。
 九月二三日デジタル改革関係閣僚会議においてどうしても押印を残さなければならないものを除いては原則押印禁止との取組方針が示された。
 一一月一三日にまとめられた「恒久的な制度的対応」において見直し基準が示された。
 「見直しの手順としては、押印を求める根拠ごとに手続を分類したうえで、求める押印の種類や手続の内容・目的等に鑑み、(a)押印を求める意味、(b)趣旨の合理性、(c)代替手段の可否、の視点から手続を評価して、押印見直しを行うこととし、図二の(ⅰ)~(ⅳ)の場合には押印を求めないこととしました。

(ⅰ) 法令の条文、省令・告示の様式のいずれにも押印を求める根拠がないものは、押印を求めない
(ⅱ) 省令・告示の様式のみに押印欄がある手続は、登記印・登録印を求めているなど特段の事情がない限り、基本的に押印を求める積極的意味合いが小さいと考えられることから押印を求めない
(ⅲ) 法令の条文で押印を求めている手続や、省令・告示の様式のみに押印欄がある手続であって押印の種類、行政手続の内容・目的・趣旨に照らして、押印を求める積極的意味合いが大きいと認められる事情(合理的な理由があって登記印・登録印を求めている等)が認められる手続においても、押印が求められている趣旨に照らして(図二※二参照)押印を求める合理的理由が認められない場合は、押印を求めない
(ⅳ) 法令等の条文で押印を求めている手続であって、押印が求められている趣旨に照らして(図二※二参照)押印を求める合理的理由が認められる場合においても、他の手段(図二※三参照)により押印が求められる趣旨を代替可能なものは、押印を求めない」

 一二月一八日内閣府より「地方公共団体における押印見直しマニュアル」が発出された。
 令和三年五月一二日、第二〇四回国会(常会)において上記の流れを受けデジタル改革関連法が成立した。そのうちデジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(以下「デジタル社会形成整備法」という。)が改正され
 「押印・書面の交付等を求める手続の見直し(四八法律の改正)
 (押印を求める各種手続についてその押印を不要とするとともに、書面の交付等を求める手続について電磁的方法により行うことを可能とする。
 施行日:令和三年九月一日(施行までに一定の準備期間が必要なものを除く。)」とされた。
 また、令和三年六月一八日に閣議決定された「規制改革実施計画」において「書面・押印・対面見直しの確実な推進」として

「a:速やかに措置
 令和三年三月末までに押印義務の見直しについて法令改正等が行われていない三〇五種類の手続について、速やかに行政手続における押印の見直しを確実に実施する。
b:可能なものから順次措置
 各府省は、オンライン化する方針の手続について、可能な限り前倒しを図りつつ措置。なお、オンライン化の手法等については、今後の情報通信技術の発展、政府の方針等を踏まえ柔軟に改善する。
c:速やかに検討を開始し、可能なものから順次措置
 各府省において性質上オンライン化が適当でないと考える四三二種類の手続のうち、少なくとも年間の手続件数が一万件以上の手続については、最新のデジタル技術や補完的手段の活用等によるオンライン化を含む利用者負担の軽減策について、引き続き検討する。」
こととした。

2 行政手続における押印廃止・対面規制の現状
 押印を求める行政手続の見直し方針(根拠別集計 令和三年三月三一日現在)

(内閣府「押印見直しマニュアル」参考資料を編集)
 現在多くの行政手続において押印廃止・対面規制(郵送・電子による申請)が行われている。

3 検討事項
(1) 押印廃止について
 そもそも押印が求められている趣旨として以下の三点があるとされている。
① 申請意思
書面に押印することによって「申請する意思」を担保する。
特に代理人による申請の場合の委任状に押印することによって代理人による申請を担保できる。
② 本人確認
  個人申請の場合の実印の押印、法人申請の場合の代表者登録印の押印を求めることで押印する権限のある人が押印しているであろうことが推認できる。
③ 文書内容の真正性
  文書に押印があることによって申請者が最終的に確認したこと、その文書が書きかけではなく最終形であることが推定されることである。
上記の項目に従って以下検討してみたい。
① 申請意思
  押印(法人の場合は代表者印)あるいは署名によって申請意思が担保されるとされていた。行政書士が代理人として申請・届出を行う場合は従来は署名・押印による委任状を添付して行われていた。
  現在、手続のなかには委任状の添付を求めない(あるいは添付はするが署名・押印がされていないもので可とする)ものもある。
  行政書士は作成した書類に対して記名・職印の押印が法定されているので(行政書士法施行規則九条二項)行政書士に依頼をして、申請代理で行っている場合はわかるがそうでない場合は申請者の申請意思を担保するものがない。
② 本人確認
  行政手続において「履歴書」を求められる場合で、現在ある手続においては押印・署名ともに求めていないものがある。
この場合には申請者本人の作成意思が確認できない。
③ 文書内容の真正性
  行政手続において「誓約書」「承諾書」を求められる場合で、現在ある手続において押印・署名ともに求めていない場合がある。
申請者の意思が確認できない。
(2) 対面規制については以下の点について検討する必要がある
  現在、要件に関わる手続(東京都建設業許可)、運用にて申請者の出頭を求めているもの(警察手続)以外の手続においては、郵送申請・電子申請で行われている。このままで良いか。
(3) 私見
  署名・押印については現状では全廃は時期尚早であると考えている。少なくとも委任状、特に本人の作成意思が求められるもの、内容の真性が特に求められるものについては最低限「署名」は求めるべきであると考えている。
  対面規制については、コロナ禍の緊急対応であるということを差し引いても原則郵送申請を認めるべきであると考えている(ある手続においてはテレビ会議システムにての協議を行っている。必要であれば導入すべきと考える。少なくとも出頭・郵送申請の選択制として欲しい)。
  電子申請に移行するまでの暫定的な措置としてはやむを得ない部分もあることは認めざるを得ないところである。
4 まとめとして
 行政手続のデジタル化はコロナ禍の対応が遅れたこともあり、急務なものである。それ自体に反対するものではない。そもそもデジタル化と電子申請は同一のものでもなく、それぞれに法的に検討しなければならない部分も多くある。さらに手続・システムの標準化が進められるかも大きな課題としてある。さらにデジタル化・電子申請に対応できない方たちへの対応の問題もある(デジタルデバイドの問題)。今回は押印廃止・対面規制について検討したが課題は山積という感である。

(行政書士)

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