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一般2015年01月05日 四半世紀を超えた「渉外司法書士協会」(法苑174号) 法苑 執筆者:山北英仁

1 渉外司法書士協会とは?
 この「法苑」の読者は法律関連の方々だと思うのですが、いきなり「渉外司法書士協会」と表示しても、司法書士界の一部の者以外、何の団体だとしか思われないと思います。正式名称は「NPO法人渉外司法書士協会」と称します。平成一三年一一月以降は特定非営利活動法人の認証を受けて活動しております。それ以前は、任意団体で「渉外司法書士協会」を名乗り、協会への看板変え以前は、「司法書士渉外実務研究会」(以下「渉外協」と称します。)と称していました。この「渉外実務研究会」設立当時何でこのような団体を作ったのかとよく聞かれました。設立は昭和六二年ですが、当時、外資系企業の商業登記申請に添付する議事録等の作成については、殆ど渉外弁護士と称される事務所において英文議事録をドラフトされ、登記申請時にその翻訳文を添付して弁護士事務所または登記申請のみの依頼を受けた司法書士が申請していたのです。当時司法書士自ら英文議事録をドラフトすることは皆無に近かったし、英文作成をする発想は全くなかったと思います。そんな時に、ある外資系企業の法務部長が「司法書士さん、議事録のドラフトは司法書士の業務でしょう。なぜ、英文の議事録もドラフトしないのですか?英文だからって作成できないはずはないですよ。一緒に勉強しませんか?」との一言で、司法書士一五、六名が集まって毎週水曜日、学士会館に集まり、「英文議事録」、「パラリーガル・ハンドブック」、「アメリカの各種法律」の原文講読会を始めたものです。当初はひたすら原文を講読するのみで、その内容を把握することは全くできませんでしたが、一年も経つと、何となくぼんやりと判るようになり、一番の成果は英文に対する拒絶感がなくなったことです。

2 創立五周年記念事業
 勉強会を立ち上げてから五年を経過したので、平成四年に五周年記念として御茶ノ水・損保会館において我が司法書士会連合会の後援も取り付け、シンポジュウムを開催する運びとなりました。タイトルを「今、世界の法律家たちは-法廷からオフィスへ-」とし、基調講演は当時法務大臣官房司法制度調査部付検事・小林明彦氏に依頼し、第二部のパネルディスカッションでのパネラーはアメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリア、カナダの法律家を招聘しました。各パネラー間において各国の法律家制度、裁判制度の違い、また、各国の法律家制度の急激な変化に伴い訴訟社会から法的相談、助言を求める社会への要請について語っていただきました。リーガル・サービスの視点も「法廷からオフィスへ」と変化している中で司法書士の明日を透視しうる国際的シンポジュウムにしたいとの希望をもって開催したものです。約二〇〇名弱の参加者があり、成果は、司法書士界の機関紙である「月報司法書士」に平成五年二月号に掲載されました。しかしながら、まだ、当時は、日本国内における渉外業務の意識しかありませんでした。海外からの投資についての、会社設立登記や不動産登記等についての法的支援をどのようにしたらよいかぐらいで、渉外業務といえども、海外での業務をすることについてはまるで念頭になく、やっていることはひたすら国内業務にしかすぎませんでした。

3 海外視察・無料法律相談会
 渉外業務といえども、やっているのは国内業務であるので、海外の法律制度、法律家制度が文献だけでは実感できないとの思いが強くなり、海外視察をやってみようということになりました。平成二年当時の日本は不動産バブル経済の絶頂期でした。そこで、不動産登記システムでは世界をリードしているという、オーストラリアのトレンス・システムを実感したいとの思いで、オーストラリア・ニュージーランドを訪問先に決定しました。オーストラリアでは、ブリスベーン、ゴールドコースト、シドニーの各地を訪問しました。そこでは、ソリシターや不動産媒介会社から不動産取引の実態の説明を受けました。ランド・タイトル・オフィス、商業登記所であるコンシューマー・アフェアーズ、裁判所、トレンス・システムの生みの親であるロバート・リチャード・トレンスが使っていた測量器具等を展示してある博物館、ローソサエティ(ソリシター協会)、五〇〇名を超えるソリシター事務所等の訪問をなし、ニュージーランドでは、オークランドのソリシター事務所の二〇世紀初頭からの遺言書を保管しているという保管庫を見せてもらいました。
 その後、海外視察は渉外協の行事の一つになり、カナダのソリシター、公証人等の訪問、再度オーストラリアのグリフィス大学法科大学院、法律扶助事務所等の訪問、ハワイのエスクローカンパニー等の訪問、中国瀋陽での物権法施行状況の視察、ヴェトナムの不動産登記法立法に関するヴェトナム司法省とのワークショップ参加等、毎年一回、平成五年より平成二〇年の間に各国を訪問しました。
 その中で特筆すべきことは、渉外協の一〇周年のときです。記念パーティーを開催するだけがイベントではないとのことで、南米に渡っている日系人移民に対する法律相談会を開催したらどうだろうという提案がありました。その提案を受けて、平成九年、最初の国アルゼンチン・ブエノサイレスの日亜友好会館において、日系人に対する無料法律相談会を開催いたしました。当初、果たして相談会に日系人が来てくれるだろうかとの心配があったが、それは杞憂でした。多くの日系人が相談に来てくれました。これに気をよくして、その後、平成一〇年はメキシコシティへ、平成一一年はパラグアイ・アソンシオンへ、平成一二年、ブラジル・サンパウロで一〇〇名を超す相談者があり、再度、相談に応じるために平成一三年にサンパウロとアマゾン川河口のベレンへ、平成一四年再度メキシコへ、相談会終了後に一部の者はキューバへ飛びました。そこでは、日本人会が結成されるとのことでキューバでの代表予定者との会談を持ちました。平成一六年、三度目のサンパウロ、平成一七年はペルー・リマでの都合七回の日系人に対する相談会を開催したものです。相談者数は延べ二〇〇名を超えておりました。

4 海外進出
 その後も、海外視察は続いておりましたが、一つの転機が来ました。平成二〇年のリーマンショックです。リーマンショック以来、日本企業の海外進出が加速の勢いがついてきて、それに引きずられてか資格者も多く海外に進出するようになってきました。特に公認会計士界はもともとビックフォーと呼ばれるグローバルな会計事務所が存在し、その傘下に日本の公認会計士も一部組み込まれており、海外進出については経験済みです。また、弁護士界においても、アメリカ、イギリス等のコモンロー諸国の弁護士事務所が世界を席巻しており、日本の弁護士事務所も外国法共同事業事務所として欧米の法律事務所の傘下に入っているし、また、日本国内の弁護士事務所も独自に海外進出を行っています。更に、税理士界においても、一部の税理士事務所は早くから中国には進出していたし、現在は東南アジアに進出が目覚ましく、また、中小の税理士事務所が共同して海外進出のための一般社団法人を設立し、その傘下の税理士事務所の海外進出をサポートし、かつ、クライアント会社との海外進出セミナーも頻繁に開催しております。安倍政権下においては、経産省、中小企業庁、外郭団体等による海外進出サポート業務を促進する施策を打ち出しており、民間のコンサルタントにおいても海外進出セミナーは花盛りです。
 このような環境下にあっても、わが司法書士界は、相変わらずの国内業務に勤しみ、海外進出にほぼ興味を示しません。これでは、司法書士界が埋没してしまいかねないとの危機感を渉外司法書士協会会員が持ち始めました。残念ながら司法書士事務所の規模は他の資格者事務所からすれば、零細企業並みです。とても単独での海外進出は人的、経済的に困難です。
 一方において、渉外業務の中には、海外の企業が日本に進出する際の会社設立や不動産取得の際の登記手続きだけではなく、日本企業から海外進出の際に、進出先の国の法律はどうなっているのか、また、進出に際しての諸手続きについて日本側でどのような書類を整えればよいのかという相談案件が増加しているのも確かです。

5 渉外司法書士協会の今後
 そこで、渉外司法書士協会において、二年前の総会において、日本企業の進出目覚ましい東南アジア各国の会社法及びその手続法の調査、国内における資料の収集、現地調査並びにリポート提出を目的とした「研究機関」を設置すること、海外研修を希望する会員や海外の事務所に転職し、または事務所を開設し業務を展開していこうとする会員を支援する「海外活動支援委員会」を設置することを決定し、その予算措置を決議しました。
 総会決議の前後の時期になると、渉外協も海外進出を見据えての海外視察を企画しました。インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイへは市場調査を兼ねた視察となりました。
 協会会員にも、既に、カンボジア、マレーシアで頑張っている会員もいますが、本年度は、ヴェトナム、インドネシア、タイ、インド、ロシアを専門に当該国の法律事情、現地調査をしてみたいという会員が出てきました。また、ミャンマーのヤンゴン大学での語学研修の後にヤンゴンで事務所を持ちたいと今秋には渡緬する会員も出てきました。また、インド、インドネシアに赴き、現地の進出済みの他資格者事務所、日系企業、政府外郭団体、現地日本商工会議所等に訪問し、現地の法律職とのコンタクトを始めてきております。
 渉外協は今大きく変化しております。四半世紀前のささやかな法律英語の勉強会からスタートしたのですが、現在では会員数も二〇〇名を超え、行動する団体に脱皮しようとしております。この渉外協が今後四半世紀でどのように変化していくのかが楽しみです。もっとも、私の世代ではその姿を見ることは不可能なことですが・・・。

(司法書士)

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