一般2021年01月08日 MS建造又は購入に伴う資金融資とその担保手法について(法苑192号) 法苑 執筆者:北村清孝
今回は、担保対象物の特性を総合的に検討し、相応しい担保手法を提案するためのシミュレーションとして、モビルスーツ(以下、「MS」という。)を建造若しくは購入する場合において金融機関が資金融資する場面を想定し、当該金融機関が融資資金を保全するためにどのような担保手法があり得るか検討を試みる。なお、本検討の前提として、地球以外に存在する動産及び債権債務関係等法解釈・法適用の全てについて日本法の適用がある、という架空の設定にて検討を進めることをご了解いただきたい。
一 担保対象たるMSの法的位置づけ
MSとは、アニメ「機動戦士ガンダム」をはじめとする「ガンダムシリーズ」に登場する、架空の人型有人機動兵器の総称である。
結論からすれば、「機動」するものなので、法的には「動産」という位置づけになる(民法八六条)。
民法八六条一項では、「土地及びその定着物は、不動産とする。」とされており、同条第二項において、「不動産以外の物は、すべて動産とする。」とされている。それゆえMSは動産ということになる。
二 前提となる背景設定
MSを保有する勢力(=所有者)としては、アニメ「機動戦士ガンダム」をはじめとする「ガンダムシリーズ」に登場する、架空の地球連邦軍、ティターンズ、ネオジオン等の勢力が考えられるが、国家と密接に結びついている地球連邦軍などの勢力については、国民の税金等軍事費で建造・購入が賄われているはずなので、資金融資と担保手法を考えるうえでの対象となるMSの所有者は、「国家」から離れた勢力である必要があり、ネオジオンが保有するMSを対象に、アニメ「機動戦士ガンダム」をはじめとする「ガンダムシリーズ」に登場する、架空のアナハイム・エレクトロニクス社(以下、「AE社」という。)が資金融資・担保取得する前提で論を進めたい。
三 動産に対する担保手法
動産を対象として担保権を設定する方法としては、①所有権留保、②動産質権設定、③各種特別法に基づく抵当権設定、④動産譲渡担保が考えられる。次に、各手法について個別検討する。
【手法①】:所有権留保
所有権留保とは、対象物の建造に係る契約あるいは購入に係る契約において、代金全額の支払が終わるまでその所有権を売主に留保するというものである。すなわち、売買代金の完済まで動産の所有権を譲渡人に留保する合意を当事者間で行うことによって支払を担保する方法である。
なお、第三者が目的動産について所有権留保がなされていることについて善意・無過失であってかつ有効な取引によって平穏・公然に占有移転(占有改定による方法を除く)を受けた場合、その第三者は目的動産の権利を取得することになってしまう(即時取得、民法一九二条)。そのため、所有権留保を行う場合は、目的動産に対してその動産が所有権留保物件であることのシールやプレートを貼付する等の明認方法を講じておくことが実務上有用である。
したがって、この手法を用いた場合、たとえMS「キュベレイ」等の主要機であっても「当機の所有権はAE社に留保されています。」とのプレートを第三者が見やすい部位に溶接することになり、なんとも戦いにくいものになるものと思われ、債務者側から明認方法を回避したい要望が出ること必至であり、明認方法ができないとなると、債権者側は、第三者による即時取得のリスクが生じるため、所有権留保の手法はMSを担保権を設定する方法としてはあまり使い勝手のいいものではないということになろうかと思われる。
【手法②】:動産質権設定
動産質権とは、債権者が債権の担保として債務者若しくは物上保証人が所有する動産を占有し、弁済があるまで債権者で動産を留置して、弁済がない場合は対象動産を競売等で換価処分して他の債権者に優先して弁済を受けるものである。
動産質権が成立するためには、質権設定者及び債権者間の質権設定契約と、質権の目的動産の引渡しが必要で、この引渡しには占有改定による引渡しは含まれない(民法三四五条)。
そのため、MSを動産質権の対象とすると、対象としたMSの全部を債権者に引き渡す必要があるため、有事において当該対象MSは出撃できないことになる。
仮に、資金不足から全てのMSを動産質権の対象としてしまった場合は、返済するまでMSによる戦闘は一切できないことになり、「機動戦士ガンダム」をはじめとする「ガンダムシリーズ」に登場する、架空の主要戦艦のみの戦いでは相手方MSの餌食となること必至である。
よってこの手法はMSの担保手法としてはおそらくそぐわない、ということになる。
【手法③】:各種特別法に基づく抵当権設定
民法上の抵当権の対象は不動産であり、動産については適用がない(民法三六九条)。
一方で、自動車抵当法・建設機械抵当法・工場抵当法・航空機抵当法などの特別法でその要件を満たす物については不動産以外の物であっても、その物を対象とした抵当権の設定が可能である。
では、MSが前記特別法上の抵当権設定の対象物となり得るか。おそらく難しいものと思われる。
MSを対象に抵当権設定を行うには、「MS抵当法」なる特別法の制定を待つしかないものと思われる。
【手法④】:動産譲渡担保(個別動産・集合動産)
動産譲渡担保とは、所有権を債権者に移転したうえで、対象物を占有改定による引渡しを行って対象物の物理的な占有を債務者たる当初所有者に維持したまま、一定制限の下に使用を許諾することにより、債権保全を図る担保手法である。
すなわち、担保対象物の所有権を債権者に移転し、債務が弁済された場合は債務者たる当初所有者に所有権を復帰させるが、債務不履行があった場合は担保目的物の所有権が確定的に債権者に移転し、それによって債権が回収されるという形式の担保手法である。
動産譲渡担保の設定は、個別動産のみならず、一定の範囲に属する内容物が流動的な動産の集まりである集合動産をも対象として行うことができる。
動産譲渡の第三者対抗要件は「引渡し」であり(民法一七八条)、譲渡担保の第三者対抗要件も同じく「引渡し」である。この「引渡し」は、現実の引渡し・簡易の引渡し(元々動産の譲渡を受けた者がその動産を占有している場合)・占有改定(譲渡人が占有する動産を、以後譲受人のために占有する意思表示を譲受人に対してする場合)・指図による占有移転(第三者が譲渡人のために動産を占有している場合に、譲渡人がその占有している者に対し、以後はその動産を譲受人のために占有すべきことを命じ、動産占有者がこれを承諾する場合)の全てが有効な対抗要件として認められる。そして、譲渡人が法人である場合は、民法一七八条の特例として、動産譲渡登記を行うことによって第三者に対抗することができることになる(動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律三条)。これにより、ネオジオンが登記された法人である場合は、AE社は動産の引渡しを受けなくても動産譲渡登記を行えば、動産についての権利取得を第三者に対抗できることとなる。
なお、「引渡し」及び「登記」による対抗要件を備えた場合であっても、即時取得(民法一九二条)は成立し得るため、明認方法を施しておく必要性があり、その意味で【手法①】の場合と同じ問題は生じ得る。
個別動産譲渡担保の対象物は、各個のMSであり、明認方法は設定したMSごとに施す必要性があるため、所有権留保の場合と同じ理由で使い勝手の悪い手法と言えるかもしれない。
これに対し、集合動産譲渡担保の場合は、一定の範囲に属する内容物が流動的な動産の集まりである集合動産を対象とするので、例えば、「戦艦ムサイ(編注:機動戦士ガンダムをはじめとする「ガンダムシリーズ」に登場する、架空の主要戦艦)のドック内にある一切のMS」という形で一定の場所に存在する一定の種類の動産を集合的に対象とすることができる。この場合の明認方法は、実務上、対象動産の保管場所の入り口等に施すことになるので、MS一体一体に明認方法を施す必要はなく、ムサイのドック入り口に施せばよい、ということになる。
集合動産譲渡担保の手法であれば、少なくとも前記【手法①】での明認方法の問題と同じ問題はクリアできそうである。
ムサイが撃沈された場合に担保対象物も一網打尽(=消滅する)になるというリスクがあり、また、対象物が出撃している間は担保から外れるというリスクは残ることにはなる。
以上から、一定のリスクは残るものの、MSを対象とした担保手法は、「集合動産譲渡担保」によって行うことが当事者の理解も得られやすく、保険・個別動産担保等他の手段と併用すれば他の手法に比べると採用しやすい手法なのではないかと思われる。
四 MSを対象とした動産譲渡担保の対象特定方法
① 契約書若しくは登記における対象物の特定事例
・「戦艦ムサイのドック内にある一切のMS」
=この場合は当該ドック内の全てのMSが対象になる。
・「戦艦ムサイのドック内にある一切のザクⅢ」
=この場合は当該ドック内の全てのMSのうち、ザクⅢ(編注:機動戦士ガンダムをはじめとする「ガンダムシリーズ」に登場する、架空のMS)だけが対象になる。
② 個別動産譲渡担保と集合動産譲渡担保の組合せ
明認方法の問題を厭わないということであれば、ドックを有する戦艦が撃沈された場合に備えて、量産型は集合動産譲渡担保、主要MSは個別動産譲渡担保の対象とし、併用することも考えられる。個別動産の特定は種類・製造番号等で特定することになるので、契約書や登記上で対象を特定する表記の仕方としては次のように表記することが考えられる。
【対象物】
「戦艦ムサイのドック内にある一切のザクⅢ」(量産型)
「AE社製MS 名称:キュベレイ 型式番号:AMX-〇〇四/MMS-三」(主要MS)
五 まとめ
以上、動産を対象とした担保手法は様々あり、対象とする動産の性質や担保手法から生じる当事者の好都合・不都合などを総合的に判断して選択する必要がある。
専門家としては、日ごろから様々な場合をシミュレーションしておき、案件に直面した際に即座に判断できるよう修練しておく必要があると思われる。それゆえ、身近な自身の興味の持ちやすい架空事例を想定し、頭の中でシミュレーションして研鑽しておくことが好ましいのではないかと思い、当職が日ごろ脳内でシミュレーションしていることの一例として筆を取った次第である。
題材に対する様々な批判や反論が予想されるが、そこは「ユーモア」としてご容赦いただけたら幸いである。
(司法書士)
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