環境2023年05月09日 環境カウンセラーの仕事(法苑199号) 法苑 執筆者:宇田吉明

読者の皆さんは環境カウンセラーをご存じない方がほとんどではないでしょうか。そこで、私の環境カウンセラーとしての活動を通じて環境カウンセラーの仕事をご紹介したいと思います。
●環境カウンセラーとは
環境カウンセラーは、一九九六年から始まった環境省に登録する制度で、市民部門と事業者部門があり、私の登録する事業者部門では、企業や事業者等が取り組む環境保全に関わる事業や環境保全活動等に対して、企業等が抱える問題や課題等について最も望ましい解決に向けて適切な助言等を行うことになっています。
●環境カウンセラーになったきっかけ
大手食品メーカーにエンジニアとして勤務していましたが、一九九五年に本社から大阪の工場に戻り、工務環境部門に配属となり、その部門長に就任しました。その頃、地球環境への関心が高まっており、関連セミナーやイベント等をきっかけとして、自然発生的に各社の環境部門の責任者が集まって情報交換をする機会が多くなりました。その中で、関西から環境の風を起こそうと意気投合し、関西環境ウェーブ(K-Wave)を立ち上げることになり、私も積極的に参画しました。その時のメンバーが初年度登録の環境カウンセラーで、私も環境カウンセラーに登録することを薦められ、一九九八年に事業者部門に登録しました。
●環境カウンセラーとして独立
K-Waveを通じて、情報交換や出版、セミナー開催などを行っている内に、気候変動への対応をライフワークにしたいと思うようになり、二〇〇〇年に勤めていた会社を退職し、環境経営事務所を開設しました。すると、すぐにK-Waveの仲間から摂南大学の非常勤講師の話をいただき、地球環境資源論を担当することになりました。このことで、一層、気候変動への対応が今後の経済社会のキーになると思うようになりました。非常勤講師の傍ら、環境報告書第三者評価、社員研修、ISO14001の導入コンサルティング等をするようになり、何とか生計が立てられるようになりました。
●自治体からの依頼
環境カウンセラーとして自治体から声が掛かることも多くあります。自治体がISO14001を取得していた頃は、職員研修や内部監査員研修を依頼され講師を務めました。ほとんどの自治体はISO14001認証取得を返上し、独自のマネジメントシステムで運用するようになると外部評価を採用するようになり、外部評価委員として、これまでに三自治体の外部評価を担当しました。外部評価では、単なる指摘に留まらず、環境負荷低減への適切なアドバイスが求められます。例えば、CO2削減のための省エネや創エネ、廃棄物発生抑制のための仕組みづくり等の助言が重要な役割となります。また、環境カウンセラーは環境審議会の委員に就任する機会もあり、私も大阪市の委員を経験しました。
●環境経営システム「エコアクション21」導入支援
エコアクション21(略称EA21、二〇〇〇年当時は環境活動評価プログラム)は、一九九六年に環境省によって中小企業向け環境経営システムとして登録制度という形でスタートしました。環境カウンセラー事業者部門にとって、EA21の普及を行うことは重要な活動でしたので、当初は中堅企業向けにEA21の導入支援を行っていました。その後、EA21はパイロット事業を経て、二〇〇四年に認証登録制度になりました。パイロット事業には導入支援と審査に参画しましたが、私が支援した企業が認証登録第一号となったことは良い思い出となりました。その後、各地に認証登録機関「EA21地域事務局」を創設することになり、多くの環境カウンセラー協会が認証登録機関として登録されました。私が所属していた特定非営利活動法人大阪環境カウンセラー協会も認証登録機関になるために準備を進め、私自身も初代判定委員長として活動を開始しました。そして、和歌山県でも中小企業団体が認証登録機関となり、判定委員長を依頼され、兼務しました。その後は、普及活動に専念するため、判定委員長から普及委員長に役割を変え、普及活動に努めました。二〇〇五年頃から自治体や企業団体等と連携し、認証取得のための勉強会「EA21スクール」を展開し、現在でも続けています。地域事務局大阪と連携してEA21スクールを開催した自治体は大阪府下の一四市、企業・企業団体は二〇組織となっています。中には全国組織の団体もあり、北海道から九州まで、普及活動に飛び回った時期もありました。二〇二〇年に新型コロナウイルス流行後はオンライン形式に切り替え、中断することなくEA21スクールを継続しました。オンラインになったことで、遠方の金融機関のEA21スクールの依頼を受けるなど、新たな展開ができるようになったことは、課題をチャンスに変えた好事例でした。
●企業の環境対策支援
これまでに数十社の環境対策の助言を行ってきました。多くは中小企業ということもあり、一番多い相談は環境関連法規の対応です。環境関連法規は、水、大気、音、振動、臭気、化学物質等多岐にわたるため、何らかの事項を見落としていることも見受けられます。この場合は、丁寧に対策を講じなかった場合の経営リスクを説明し、理解をしていただき、対策を取っていただくことにしています。その際、新日本法規出版株式会社発行の「Q&A 食品関係環境規制・基準の手引」の執筆メンバーとして関わっていることが大いに役に立っています。感謝です。最近では、ニーズも多様化し、カーボンニュートラルへの対応やSDGsへの取組、BCPの導入等多岐にわたっています。環境カウンセラーとして事業者にアドバイスを行う立場にいる者にとっては、常に世の中の動きに敏感でなければならず、かつ、勉強しないと務まりません。
●NPO・NGOとしての活動
多くの環境カウンセラーは地域の環境カウンセラー協会に所属して活動しています。私は大阪の協会に入会し、NPO化などに関わりました。NPOとして登録すると社会的地位も認められ、自治体との協働が始まりました。最初の活動は、市民向けの環境啓発についての相談でした。そこで、環境ISOの仕組みを使った環境家計簿を提案し、受託することができました。参加した市内の家庭に環境家計簿を配布し、家庭での省エネへの取組について説明会を開き、各家庭で実践、環境家計簿を提出、アドバイスを入れた結果を参加者に返し、次年度も取り組んでいただく、いわゆるPDCAを回す仕組みです。同時に電気の消費量が見える「省エネナビ」を五〇家庭に取り付け、環境家計簿のみの家庭と比較も行いました。結果は環境家計簿を使った家庭で約二%削減に対し、省エネナビを取り付けた家庭では約五%の削減と「見える化」の効果がはっきりと現れました。この事業は五年実施したところで、次のステップとして、自治体、市民・市民団体、企業・企業団体が参加した「なにわエコ会議」を創設することになり、創設に参画し、設立後は企画委員、環境情報誌編集長、エコライフ部会長に就任しました。その後、二〇〇八年に企業部会長になったのを機会に、CO2削減コンペを企画・運営し、現在まで一五年間継続しています。毎年、三〇社ほどの応募があり、優秀な事業者には大阪市となにわエコ会議から表彰を行っています。また、EA21スクールも同時期から開催しており、近年では事業者の関心も高まり、年二回開催しています。これらの取組が評価され、なにわエコ会議団体としては気候変動アクション環境大臣賞を受賞し、私個人では地域環境保全功労者表彰(環境大臣賞)を受けることができました。
●環境カウンセラーとして思うこと
一九九二年第一回地球サミットで気候変動対策が話し合われてから約三〇年、私が環境カウンセラーとして気候変動問題に取り組み始めてから二五年となります。一九九七年にCOP3で京都議定書が採択され、温暖化対策が加速するかに見えましたが、アメリカの離脱などもあり、大きなうねりにはなりませんでした。しかしながら、二〇一五年に採択されたSDGsやパリ協定を機会に、世界は大きく変わってきました。日本も二〇二〇年に、菅政権がカーボンニュートラル宣言を行ったことで、経済界の動きも変わってきています。私は食品出身の環境カウンセラーということもあり、現在、食品メーカーの環境支援を行っていますが、食品メーカーにとっての重要課題は脱カーボン、プラスチックごみ削減、食品ロス削減への取組です。企業は利益を出さないことには持続可能な経営ができません。いかに環境負荷を低減させながらコストを下げるかがキーポイントとなります。これまで長年培ってきた技術や知識等をフルに活かす中で、課題をチャンスと捉え、事業者の伴走者として、これからも環境カウンセラーとしての活動を続けてまいりたいと思います。環境カウンセラーの仕事を少しでもご理解いただければ幸いです。
(環境カウンセラー)
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