訴訟手続2020年09月08日 WEB会議システムを利用して(法苑191号) 法苑 執筆者:今泉麻衣子
1 はじめに
ご承知のとおり、今年に入ってから、新型コロナウイルスの影響が拡大し、裁判所への出廷や会議等で人が集まることを避ける必要が生じました。
私は、緊急事態宣言前は、Skypeの音声通話で、会議に参加したり、海外のお客さんとのやりとりをしたことがあった程度で、ほとんどWEB会議の経験も知識もありませんでした。
ですが、弁護士会の委員会の会議や、私的研究会などで、実際集まることができないため、WEB会議システムが用いられることになり、やむにやまれず、ZOOM、Ciscoを利用した会議をすることになりました。また、裁判所のTeamsを使った会議も何件か経験しました。
やってみると、意外と悪くありません。ですが、やはり、WEB会議システムの限界もあると感じることもありました。
雑感ということで、とりとめのない話になりますが、ご容赦下さい。
2 いろいろなシステムを使ってみました
はじめに、友人グループでLINEのビデオ通話を利用してみました。通話について問題はなかったのですが、LINEやSkypeは、事前に、通話相手の連絡先を把握している必要がありますので、特定のグループで会話する場合には向いているのですが、一定数以上で通話をする場合には、事前の準備が容易ではありません。六月の日弁連(住宅紛争処理機関検討委員会)では、ビデオ会議(所属弁護士会に出向いて行う)か、Skype参加かどちらかだったのですが、Skype参加の場合には、参加者のグループを作る必要があるため、事前に事務局の方にIDを連絡するなど、何度かやりとりをする必要がありました。
ですが、ZOOMやCiscoは、招待メールを送れば、記載されているURLをクリックすることで会議に参加することができるため、大人数の会議には向いているように思いました。また、ホストが入室の許可をするので、無関係な人が入り込むことを防ぐことができます。
そのため、弁護士会の委員会や研究会・勉強会などの会議では、ZOOM(ときどきCisco)を使っていました。有料アカウントを持っている方にホストになっていただくと、利用時間の制限はありませんし、そうでない場合には、利用時間経過後に再度会議の招待メールを送信してもらう方法で特に問題なく行うことができました。
3 弁護士会の委員会内の勉強会でZOOMを併用してみました
現在私がチーム長を務めております、愛知県弁護士会の委員会内のチーム(愛知住宅紛争審査会運営委員会・住宅紛争マニュアルチーム。勉強会のようなものです)では、緊急事態宣言解除後、弁護士会館でのチーム会の開催とあわせて、ZOOMでの参加も可能としました。
そうしたところ、従前のチーム会と比較して参加者が多くなりました。従前は一〇名前後のことが多かったのですが、WEB会議を併用するようになってからは、会館での参加者は五~六名、WEBでの参加者が一〇名ほどになることもありました(チーム員は二四名)。同様の話は他の委員会や勉強会等でも聞きましたので、弁護士会館に出向かなくても、途中参加や途中退席をしなければならない場合でも、参加しやすいことがメリットなのではないかと感じました。
また、このチーム会に関しては、WEB会議にしてからの方が、発言や議論が活発になされるようになったようにも感じます(名前を呼んで指名することになるため、発言をせざるを得ないだけなのかもしれませんが。)。
ですが、一方で、新入会員(一年目の弁護士)からは、事務所からWEB会議に参加するのはハードルが高いという話も聞きました。確かに、イソ弁の間は、事務所での振る舞いに気を遣うというのも理解できます。
それに、人となりも分からない先輩たちとのWEB会議では、発言をしてもよいのかなど、その場の空気をつかみづらいという側面もあるのだと思います。やはり、WEB会議になって発言が増えた基礎には、これまでの、弁護士会館で集まって開催してきたチーム会において、人間関係ができていることがあるのだと感じました。
このように、移動時間がなく空き時間でも気軽に参加することができ、活発な議論が期待できることから、WEB会議を採用することのメリットは大きいと感じますが、新しくメンバーとなっていただいた方に、負担感なく参加していただき、引き続き参加していただけるよう、実際に集まって開催するチーム会もやはり必要だと感じました。
4 勉強会~聴衆の反応が分からなくて
また、私的勉強会である、名古屋投資被害弁護士研究会でも、月に一度開催している例会(勉強会)を、四月以降、WEB(Cisco)を利用して開催しています。
こちらも、従前、会議室を予約して開催していたときに比べて、倍近く参加者が増えた回もありました。
ですが、先日、私が発表を担当した回に気付いたのが、聴衆の反応が全く分からず、話がとてもしづらいということです。
会議の場合と異なり、文献・裁判例等を検討して発表するとなると、ある程度の時間、一人で話をし続けることになります。会場で実際に参加者が目の前にいれば、どこまで理解してもらえたか、どの点に興味を持ったかなど、参加者の様子からある程度判断することができます。しかし、WEBだと、そもそも反応は分かりづらい上、カメラを切って参加する人もいるため、話している間、とても寂しい気持ちになりました。
今後、大規模な勉強会・研究会などもWEBで行うことがあると思われます。WEBであれば、仕事の都合や家庭の事情などで、遠方まで出向くことができない人でも気軽に参加することができるメリットがあると思います。ですが、研究会などの目的や意義は、議論をさらに深められるところにあると思いますので、いかにして話し手と聞き手の意思疎通を図り、議論を充実させるかは大きな課題になるのではないかと感じました。
5 弁護士業務でも使ってみました
⑴ 緊急事態宣言まっただ中、弁護士会の緊急無料法律相談で入った破産の相談。お電話をいただいたのは、債務者のご兄弟で、債務者本人はガンの治療中で、肺の病気も併発しているとのことでした。
本来であれば、債務者ご本人と面談をしたかったのですが、名古屋の中心地にあり、不特定多数の人が出入りする法律事務所に、重症化するリスクが高い方に来ていただいて、万が一のことがあっては困りますし、私が感染している可能性がゼロではない以上、ご自宅などにお邪魔することも難しいと思われました。ですが、できる限り早く受任通知を送付する必要がありました。
そのため、まずご兄弟に来所いただいて概要をご説明いただいた上で、別の日にZOOMで通話をして債務者ご本人から事情の確認と意思確認をすることにしました。私としても、顔を見ながら意思確認をすることができて安心しましたが、債務者ご本人としても、弁護士に依頼するという一大事ですので、自分が依頼しようとしている弁護士と顔を見て話すことができたのは、大きな安心材料になったのではないかと思います。
なお、来所いただいたご兄弟にZOOMの接続をお願いしました。これまでにZOOMを利用したことはないとのことだったのですが、スマートフォンからすぐにアプリをダウンロードでき、特に問題なく行うことができました。
⑵ また、県外のお客さんと、陳述書作成に関する打ち合わせをするのにもZOOMを使いました。
何度もお会いして打ち合わせをしているのでスムーズに進むかなと思ったのですが、なぜそのような行動を取ったのか、一見よく分からない箇所など、話を深めていくのが、実際にお会いして話している場合と比べ、きつい言い方に聞こえてしまうように感じ、苦労しました。それでも、表情が見える分、電話でお聞きするよりは話をしてもらいやすかったのかなとは思いました。
なお、この方はパソコンに詳しくなかったため、お子さんにZOOMの接続をしていただき、陳述書案は予め郵送しておいたものを見ていただきながら行いましたが、画面共有で、私のパソコンのデータを表示しながら行えば、その場で修正したものを確認していただくこともできますので、さらにスムーズに進むようにも思いました。
⑶ 本年二月から、名古屋地裁ではウェブ会議システムの運用が始まりました。
相手方代理人が遠方の事件、訴訟当事者が多数の事件などで何件か利用の打診があり、すでに二件について期日が開かれました。中には、双方代理人が名古屋市内(事務所所在地は裁判所の近く)にもかかわらず利用することになった件もありました。
争点整理、特に初期の段階では、事案にもよりますが、期日では、提出された準備書面についての簡単な確認のやりとりにとどまることもあり、せっかく出頭をしても、期日がごく短い時間で終わることもよくあります。近いとはいえ、出頭にはそれなりに時間が必要ですので、事務所(場合によっては自宅などからでも)にいながら手続をすることができるのは非常にありがたいと感じました。また、やりとりをするにあたって、電話でも可能ではありますが、やはり、表情が見える方が、話もしやすいという感覚はありました。
今回は、緊急事態宣言の間には期日は開かれませんでしたが、今後、同様の事態が生じた場合に、ウェブ会議を利用することで、期日を延期することなく行うことができるならば、停滞してしまう訴訟案件を減らすことができ、迅速な権利の実現に資するのではないかと感じました。
とはいえ、公開の法廷で開くこととされている口頭弁論期日は、緊急事態宣言の間は開かれませんでした。そうであるならば、初回の裁判も、判決の言い渡しもできないということになり、訴訟の停滞は避けられなくなりますので、少なくとも判決言い渡しについてはなんとか行うことはできないものかと強く感じました。
6 おわりに 会って話すことの重要性
⑴ WEB会議システムには、使ってみると、思った以上に利点が多く、一定の場面では積極的に活用するべきと感じました。
⑵ ですが、調停や和解協議など、言語表現のみでなく、その裏に隠された感情や微妙なニュアンスをとらえて着地点を探る場面では、WEB会議では、対面の場合のように功を奏するかどうか分からないなと感じます。
以前、家事調停で、電話による手続を用いた際に、調停委員の真意をくみ取ることが難しく、このままでは調停が長引くだけと判断し、その後は毎回裁判所まで出向くことにしたことを思い出しました。
また、私は建築事件を多く取り扱っていますが、建築事件については、特に付調停後には、図面などを見ながら協議をすることもままありますが、その際にはやはり対面でないと意思疎通が難しいと感じます。
今後、ADRなどでもWEBの利用が検討されていくと思われます。和解成立に向け、どのような工夫の余地があるのか、大変興味があります。
⑶ また、初回の法律相談など、相談者の人となりが分からないときには、適切な聞き取りやアドバイスがどこまでできるのかという意味で、不安があります。
⑷ このようなことから、やはり、それが弁護士業務であれ会議であれ、人となりが分かるまでは、対面して話すことはとても重要ですし、人となりが分かった後でも、信頼関係を維持するため、対面して話す機会があることは重要であると感じました。
なお、WEB飲み会も何度かやってみて、これはこれで面白かったのですが、やはり実際に会わないと、せっかくお酒の力を借りても相手とこれまで以上に親しくなることはできないなと感じました。
新型コロナウィルスで、人と会って話すことができるのが、いかに貴重なことかということが身に染みて分かったように思います。今後しばらくはどうしても限定的になってしまうと思われる対面して話す機会とWEB会議による機会をうまく使い分け、業務を効率化しつつ、依頼者の利益にも、自らの能力の向上にも努めることができればと思います。
(弁護士)
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