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金融・証券2018年01月09日 仮想通貨あれこれ(法苑183号) 法苑 執筆者:大倉健嗣

1 資金決済法の改正
 平成二九年四月から施行されている資金決済に関する法律(資金決済法)の中で「仮想通貨交換業」に関するルールが新設された。
 思い返すと、平成二七年二月に合計八五万BTC(「BTC」はビットコインの単位。当時の価値で約四百七〇億円相当。)が消失し破綻したビットコイン取引所「マウントゴックス」社の事件があった。同社のCEOであるマルク・カルプレス氏は業務上横領罪で起訴され平成二九年七月には東京地裁で初公判が開かれている。また、国際的にも平成二七年六月のG7エルマウ・サミット首脳宣言においてテロリストの資産凍結を目的とする仮想通貨の適切な規制が求められるとともに、政府間機関であるFATF(資金洗浄に関する金融活動作業部会)において、仮想通貨交換所を登録・免許制とし、本人確認等によるマネーロンダリング対策を行う規制を各国において策定すべきであるというガイダンスを発表した。この流れを受けて今回の資金決済法の改正がなされたという経緯である。

2 仮想通貨とは
 仮想通貨とは「ブロックチェーン」技術を用いたデジタル通貨のことである。ブロックチェーンとは、取引をネットワーク上に分散して記録する技術のことであり、元々は「Satoshi Nakamoto(中本哲史)」という正体不明の人物(日本人ですらないという噂も…)が平成二〇年に発表した、仮想通貨「ビットコイン(Bitcoin)」についての論文に端を発するものである。ビットコインでは、個々の仮想通貨の譲渡を一つの取引(トランザクション)とし、複数のトランザクションをまとめたブロックが鎖(チェーン)状に繋がったような形で、P2P(ピア・ツー・ピア)ネットワーク参加者の端末(ノード)に分散し「非中央集権的」に記録される。また、ビットコインでは「仕事の証明」(プルーフ・オブ・ワーク、PoW)という作業により改ざんを回避する仕組みをとっている。PoWを行うには相応の計算機資源を必要とするが、最速で改ざん防止措置をとった者に報酬として一定額のビットコインが割り当てられる。この作業のことを鉱物の採掘になぞらえて「マイニング」と呼ぶ。非中央集権的にネットワーク全体で全取引記録を保持し、誰でも見ることができるオープンな構造なので、従来の国家が発行する法定通貨に比べはるかに「民主的」であるという。
 さて、ビットコインは「通貨としての価値」を持つ第一世代目の仮想通貨だと言われているが、「通貨としての価値」に「付加価値」の付いた第二世代目の仮想通貨も出現している。その代表格といえるのが平成二七年七月にリリースされたイーサリアム(Ethereum)である。イーサリアムでは取引履歴だけではなく、データやプログラムも記録の対象となる点でビットコインと異なるが、最も特徴的なものが「スマートコントラクト」という仕組みである。一般的に、スマートコントラクトとは、ブロックチェーンネットワークにおける「自動執行力のある合意」のことをいい、たとえば、支払日や金額などの支払条件をプログラムコードとしてブロックチェーンに埋め込んでおき、条件が成就されたときに(第三者を全く介さず)自動的に支払いが実行されるというような仕組みのことである。ブロックチェーン技術を用いて実現されるため、合意条件は改ざん不能な形でネットワークに記録され共有される。
 スマートコントラクトは、従来の契約実務を置き換える可能性があるため注目されているが、登記実務を置き換える可能性のある「ファクトム(Factom)」という第二世代通貨もある。ファクトムは、元々ブロックチェーン上に証明書類や電子記録、ログといった記録を残すために生まれた仮想通貨で、改ざん不能のブロックチェーンを用いることで、セキュリティも高いと評価されている。ファクトムが誕生したことによって証明書の発行や閲覧の際に第三者の介在が不要になり、手数料も大幅に削減することが可能となった。このファクトムを利用すれば、従来のように法務局で登記を管理する必要がなくなるかもしれない。中間省略登記や公信力の議論などは過去のものとなる可能性がある。なお、ファクトムに関連して、平成二九年三月に現れた「ファクトムハーモニー(Factom Harmony)」と呼ばれる仮想通貨は、住宅ローンに関する契約条件を一括でブロックチェーン上に記録する仕組みを有している。
 ちなみに、ビットコイン等は「暗号通貨(Cryptocurrency)」と呼ばれることがあるが、本稿でいう「仮想通貨」と同義である。「仮想通貨」というと従来のサーバ型前払式支払手段のようなものも含まれるように聞こえるので、「暗号通貨」と呼び分けているのである。

3 仮想通貨交換所
 資金決済法の改正により規制されることになった仮想通貨交換業者であるが、「仮想通貨交換業」とは、①仮想通貨の売買または他の仮想通貨との交換、②前記①に掲げる行為の媒介、取次ぎ、または代理、③前記①②の行為に関する利用者の金銭または仮想通貨の管理、を業として行うことをいう(法二条七項)。①の売買・交換を行う事業者は、仮想通貨の「販売所」と呼ばれ、利用者は仮想通貨交換業者と直接売買を行うのに対し、②の媒介等を行う事業者は、仮想通貨の「取引所」と呼ばれ、株式の取引のように売り、買いの板情報に基づいて売買のマッチングが行われる。一般的に、販売所で仮想通貨を買うとスプレッドが大きく手数料も高いため割高になるが、反面、取引所で仮想通貨を買おうとする場合、仮想通貨流通量(売りに出ている通貨量)の少なさから指値どおりに買えない可能性も大いにある。このため、利用者は両者を適切に使い分ける必要がある。③の管理方法についてであるが、事業者が「ウォレット」という電子財布に仮想通貨を保管する場合があり、そのことを指している。
 仮想通貨交換業者となるためには、財務(支)局長に登録が必要である。事業者は、利用者が事業者に預託した金銭や仮想通貨を分別管理する義務を負う。その他、情報の安全管理措置を講ずること、委託先に対する指導等の措置を行うこと、マネーロンダリング対策として犯収法上の体制整備を行うこと、帳簿書類を作成・保存し仮想通貨交換業や分別管理に関する報告書を作成して財務(支)局長に提出すること、などが求められる。
 金融庁によると、平成二九年一〇月一二日時点での仮想通貨交換業者は合計一一業者であり、一九業者が継続審査中の状況である。

4 ICO
 企業は、ブロックチェーン技術を使い仮想通貨を自由に作り出すことができ、その仮想通貨を売り出すことがある。これをICO(Initial CoinOffering)と呼ぶ。ICOが行われている仮想通貨はビットコイン等の既存の仮想通貨と交換する形で購入することが多い。企業側は全世界から簡単に多額の資金を集めることができるため、新たな資金調達の手段として注目を浴びている。
 ビットコインの例で言えば、発行された平成二一年時点の価格は1BTC=約〇・〇七円だったものが、平成二九年一月には1BTCが一〇万円を超え、本稿執筆時点(平成二九年一一月)で1BTCが七〇万円を超えているような状況である。八年で価値が約一〇〇〇万倍になっているのは驚くべきことである。この仮想通貨の価格上昇にうまく乗って億円単位の資産を築いた者も出ており、巷では、納棺師の生き様を描いた映画「おくりびと」をもじって「億り人」と呼ばれている。
 次の「億り人」を狙って仮想通貨に投機しようという人は後を絶たないが、ICOのリスクの高さを認識して資金を投じるべきである。新規株式公開(IPO)では取引所のルール等もあり、引受証券会社の目を通したり監査手続も入ったりするのに対し、ICOでは特段のルールもなく、企業が独自に自由に発行することができるところがIPOと大きく異なるところである。なお、IPOではいずれかの取引所に上場をする手続であるが、ICOは必ずしも仮想通貨交換所で取り扱われることを前提としていない。すなわち、<1>ICOにより売り出す(クラウドセール)、<2>交換所に上場する、という二段階のステップがある。ICOの段階で早期に仮想通貨を購入したとしても、上場しなければ売買が困難になるし、上場した場合であってもうまく価格が高騰してくれるかどうか分からない。資金を調達するだけしておいて全く事業を開始する気のない詐欺的な企業も少なくないし、それどころか仮想通貨が実在しないのに資金を集めようとする輩も散見される。
 このように、ICOは極めてリスクが高いことを念頭に置いて自己責任で参加すべきである。少なくとも、企業が公開している「ホワイトペーパー」(目論見書のようなもの)には事前に目を通し、事業計画や経営陣の経歴やスキルなどを確認したいところである。
 仮想通貨の取引で利益を出した場合には、もちろん税金を支払う必要がある。国税庁は「雑所得」であるという見解を出したが、仮想通貨から円に換えた時に利益確定となるのかどうかなど更なる議論も必要であるし、税率や損益通算等の点で不利な雑所得に分類したことの当否が問われるだろう。

5 仮想通貨の今後
 ウォーレン・バフェットは、「ビットコインは価値を生み出す資産ではないから評価することができない。」「ビットコインはバブルである。」と断じているが、ブロックチェーン技術が社会にもたらすインパクトは小さくないと思われ、人々の投機的行動とは別に、冷静に捉える必要があるだろう。経済産業省が公表している平成二八年のレポート(平成二七年度 我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(ブロックチェーン技術を利用したサービスに関する国内外動向調査)報告書)では、ブロックチェーン技術が社会経済に与えるインパクトとして、①価値の流通・ポイント化プラットフォームのインフラ化、②権利証明行為の非中央集権化の実現、③遊休資産ゼロ・高効率シェアリングの実現、④オープン・高効率・高信頼なサプライチェーンの実現、⑤プロセス・取引の全自動化・効率化の実現、の五つを挙げているが、これらが実現すれば社会構造が大きく変化することは想像に難くない。先述のスマートコントラクトや登記制度の話に加え、法律家が日常的に行っている事実認定の実務も大きく影響を受けるだろう。
 透明化する世界では、プライバシーの問題が生じる。ビットコインはじめ多くの仮想通貨は完全に匿名の取引は不可能だが、「匿名性暗号通貨」と呼ばれる仮想通貨も発行されている(たとえば「ジーキャッシュ(Zcash)」「ダッシュ(DASH)」「モネロ(Monero)」など)。ただ、もちろん、これらの通貨はマネーロンダリング等の犯罪に利用される可能性がある。プライバシーの保護と犯罪抑止・捜査とはここでも相克するのである。
 このように、仮想通貨の世界もまだまだ混沌としており、インターネットの黎明期を彷彿とさせる。社会の仕組みや法制度がこれからどう変わるのか、あるいは変えたらよいのか、法律家はその社会でどんな役割を果たせばよいか、など興味は尽きない。

(弁護士)

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