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相続・遺言2019年01月09日 遺言検索システムについて (法苑186号) 登記実務の現場から 法苑 執筆者:齋藤隆行

1 遺言検索システムの概要
日本公証人連合会では、平成元年以降、全国の公証役場で作成された公正証書遺言の遺言者の氏名、生年月日、公正証書を作成した公証人、作成年月日など(ただし、遺言の内容を除く。)のデータを一元的に管理する「遺言検索システム」が運用されている。
 この遺言検索システムは、全国どの公証役場の公証人からでもこれを利用することができる。そして、検索の結果、遺言者の名前と生年月日から、公正証書遺言を作成した公証役場とその時期の特定ができ、原本を保管している公証役場でその謄本を受けることができる大変便利なシステムである。このシステムの運用が開始された平成元年においては、わずか三四件しか利用件数がなかったが、平成二七年には六二七一件までに至り、近年の公正証書遺言作成数の増加とあいまって、遺言検索システムの利用件数も飛躍的に増加している(昭和通り公証役場HP参照)。
 実際、相続開始時において、遺言書の作成の有無や、遺言書を作成したもののその遺言書の所在が不明である場合などには、このシステムを利用するメリットは少なくない。
 もっとも、このシステムを利用し、あるいは、公正証書遺言の謄本の交付請求ができるのは、相続人等の法律上の利害関係を有している者に限られている。また、システムの利用にあたっては、遺言者が死亡されたことを証明できる書類(除籍謄本等)と法律上の利害関係を有していることを証明できる書類(戸籍謄本)及び請求する者の身分を証明する書類等の提出が必要になる。

2 事件の受託
 (1) 序章
過日、税理士のA先生から、遺贈を登記原因とする土地の所有権移転登記をしてほしいとの依頼を受けた。顧問先の会社の代表取締役B氏の兄C氏が死亡し、B氏がC氏よりD土地の遺贈を受けたので、早急にその手続をしたいとのことであった。A先生の話では、B氏の手元には、公正証書遺言があり、また、登記済証も揃っているとのことであった。遺贈の登記において、公正証書遺言と登記済証が揃っている場合は、司法書士としては安心して受託できる登記案件だといえる。公正証書遺言は、遺言執行者が選任されていることが常であり(大抵は、受遺者が遺言執行者に選任されている)、「相続させる」との文言、当事者、不動産の表示も正しく記載されている場合がほとんどだからである。また、登記済証があれば、相続人にその提供をお願いする気まずさもないからである。
 しかし、実際、当職に届いたのは、自筆証書遺言であった。しかも、その内容は「Cは、B又はBの妻にD土地を遺贈する」というものであった。このように、受遺者が選択的に定められている遺言書を目にしたのは、司法書士歴二四年余の当職にとっても、初めてであり、その衝撃は大であった。当職の知る限りでは、このような遺言に基づいて登記の申請が受理されるとの文献や先例等はなかったので、調査を尽くしたが、残念ながらこれらを発見することはできなかった。また、このように受遺者が特定できない遺言では、仮に家庭裁判所の検認を受けたとしても、この遺言に基づく遺贈を原因とする土地の所有権移転登記は受理されない可能性が高いものと思われた。
 そこで、A先生に、その旨を告げると共に、公正証書遺言の存否についての再確認をお願いした。
 後日、A先生から電話があり、B氏は現在入院中であり、病院でB氏に事情を聞いたところ、B氏によれば、「現在手元に公正証書遺言はないが、C氏がB氏にD土地を遺贈する旨の公正証書遺言をE公証役場で作成したことに間違いはない。」と言っているとのことであった。
 これはまさに「遺言検索システム」を利用する絶好の機会であると思われた。
 そこで、その旨とシステムの利用にあたっての方法と必要書類をE公証役場に問い合わせておく旨をA先生に告げ、電話を切った。
 ところが、「遺言検索システム」を利用するべく、早速、E公証役場に問い合わせをしたところ、受遺者がこのシステムを利用するには、想定以上に、極めてハードルが高いことが判明したのである。
 E公証人の回答はけんもほろろであった。E公証人曰く、「まず、C氏が死亡した旨の記載のある戸籍(除籍)謄本を取得し、これを公証人に呈示することが大前提であって、それがない限り、相談にすら乗れない。」と。確かに、公正証書遺言の存否の照会請求、閲覧、謄本請求については、遺言者生前中は、遺言者本人しかできず、推定相続人でも請求はできないため、このような回答も筋は通っている。
 しかしながら、そこを粘り、具体的な必要書類のご教示を願った。
 結果、B氏は相続人ではないので(C氏の相続人は配偶者と子)、利害関係人か否かの判断のため、B氏が受遺者であることが想定できる資料(先に当職が拝見した自筆証書遺言がこれにあたると思われる)及び印鑑証明書付の上申書(B氏の実印を押印したもの)、さらに受遺者B氏は親族であるので、C氏との親族関係がわかる戸籍謄本等、司法書士が代理する場合には委任状(B氏の実印を押印したもの)をそれぞれ用意せよとのことであった。
 まず、B氏はC氏の直系あるいは同居の親族ではないので、B氏自身がC氏の死亡した旨の記載のある戸籍謄本をとることは極めて難しい。かといって、C氏の相続人に戸籍謄本の取得をお願いすることも困難であった(公正証書遺言があった場合、C氏の相続人はD土地を相続できなくなるからである。B氏とC氏の相続人とは利益が相反することになる)。
 また、現在入院中であるB氏に、上申書を作成するのも困難と思われた。
 このような状況では、いずれの作業をも当職が行うしかないとの判断に至った。上申書の作成には、B氏と面談して、事情を聴くしかない。そこで、A先生に、A先生の立会いのもとでB氏と面談するための日時の調整をお願いした。
 (2) 受遺者との面談
 後日、病院で、A先生の立会いのもとでB氏との面談がかなった。当職が聴いたB氏の言は、おおよそ次の内容であった。
① 兄(C氏、以下同じ。)は、生前、自筆証書遺言を作成して、私B氏、以下同じ。)に交付してくれた
 が(当職が最初に呈示を受けたもの)、私の方から、あらためて兄に同内容の公正証書遺言を作成して
 くれるよう頼んだ。
② その時、兄は体調がすぐれず、公証役場に赴くことはできない状態だった。そこで、公証人に兄の自宅
 までの出張を依頼し、公証人と証人の方二名が、兄の自宅を訪れ、公正証書遺言を作成した。以上の事情
 につき兄から電話で連絡を受けた。
③ D土地を兄名義にしたのは、兄が長男として家業を継ぐことを前提に両親の意向であった。
④ しかし、兄は結局、家業を継がず、三男である私が家業を継いだ。
⑤ 兄は、家業を継いだ私に遠慮して、D土地を私に遺贈してくれたのだと思う。
⑥ 現在、D土地の上には、私の自宅が建っている。
⑦ D土地の固定資産税は、今日まで長年にわたり私が負担してきた。
 また、遺言検索システムの代理利用と遺贈による所有権移転の登記を受託するにあたって、本人確認・意思確認を行い(B氏は入院中であったが、意識・記憶ははっきりしており、これらの確認も問題なくできた)、後期高齢者医療保険証の呈示を受け、スマートフォンで写真撮影をした。さらに、職権による戸籍謄本等の取得についても説明し、了解をとり、印鑑証明書の用意もお願いし、面談を終えた。
 (3) 「遺言検索システム」の利用と遺言書の発見
 事務所に戻ると、本人から聴取した事実を上申書にまとめた。作成した上申書、委任状(遺言検索システムの代理利用と遺言書の謄本請求及びその受領のためのもの)をB氏の自宅宛に郵送し、これに実印を押印し、印鑑証明書と共に返送していただいた。
 また、C氏が死亡した旨の記載のある戸籍謄本、B氏がC氏の弟であることがわかる戸籍謄本等を職権により取得した。
 これにB氏が受遺者であることが想定できる資料として、先の自筆証書遺言の写しを用意した。
 後日、予約した日時にE公証役場にこれらを持参し、遺言検索システムの利用を願い出た。
 検索の結果、B氏からの聴取どおり、C氏は、E公証役場で公正証書遺言を作成している事実が判明した。そこで、持参した書類を提出して、間髪入れずに謄本請求をし、無事、公正証書遺言の謄本の交付を受けることができた。
 その遺言書には、B氏にD土地を遺贈する旨及びB氏を遺言執行者として指定する旨の記載があったことはいうまでもない(なお、遺言の効力発生時にB氏が死亡していた場合、D土地はB氏の妻に遺贈する旨の記載があった)。
 (4) 登記の申請
  上申書の受領時に、併せて、委任状(固定資産評価証明書の取得のためのものと遺贈を原因とする所有権移転登記を代理申請するためのもの)、さらに印鑑証明書を受領していたことから、公正証書遺言の取得後は、早速、登記申請の準備へと取りかかった。
 まず、D土地の固定資産評価証明書の取得であったが、これも、公正証書遺言の謄本が手に入ったおかげで、これを呈示することで、何らの問題もなく速やかに取得することができた。
 取得したD土地の固定資産評価証明書から登録免許税を算出し、当職の報酬と併せた登記費用の計算をした。そこで、登記費用を用意していただきたいこと、D土地の登記済証を預かりたい旨をA先生を通じ、B氏に連絡した。
 しかし、程なく、A先生からの連絡が届いた。当初は存在すると聞いていたD土地の登記済証が、B氏の手元には存在しないとのことであった。B氏が入院していたことから、B氏の妻が自宅や銀行の貸金庫など心当たりをくまなく探したが発見できなかったらしい。
 また、公正証書遺言があった場合、不利益を被るC氏の相続人に、登記済証の所在確認をお願いすることも困難であった。
 登記済証がない場合に、登記申請をするには、事前通知制度を利用するのが、費用面では最も安価で済む方法である。しかし、B氏が入院中であることから、登記所から本人限定受取郵便で送付される事前通知を、B氏がその住所において受領することは困難に思われた。そこで、その旨をA先生を通じB氏に連絡したところ、やはり、事前通知を受け取ることは困難という結論に至った。そこで、当職(司法書士)による本人確認情報を提供して登記を申請することとなった。前回、B氏を訪問した際に、登記の申請のための本人確認・意思確認は済ませてはいたが、本人確認情報の作成をするには、さらに詳しい本人確認が必要である。具体的には、本人確認書類(後期高齢者医療保険証)が写真のない証明書類(いわゆる二号書類)であったため、少なくとも、もう一点本人確認書類の呈示を求める必要があったのである。
 そこで、再度、病院にB氏を訪ね、介護保険被保険者証の呈示を受け、スマートフォンで写真撮影をした。さらに、念のため、不動産登記規則に定める書類以外の書類として、固定資産税納税通知書とその領収書を拝見、確認した。
 これらに基づいて、本人確認情報を作成した。B氏は、登記義務者(遺言執行者)であると共に、登記権利者(受遺者)でもあるので、B氏につき、本人確認情報を作成するのは、いささか奇異な感じではあるが、それ以外に方法がない以上、やむを得ない。
 そして、本人確認情報とその他の必要書面を提供して、D土地につき、遺贈を原因とする所有権移転登記を管轄登記所に申請した。
 ほどなく、申請した登記も受理され、交付を受けた登記識別情報通知や登記事項証明書等をB氏に引き渡し、ここに、「遺言検索システム」を利用して取得した公正証書遺言に基づく遺贈による所有権移転登記手続は無事終焉を迎えたのである。

3 むすび
 「遺言検索システム」が大変優れたシステムあり、多くの相続手続で利用されていることは疑いのない事実である。特に、相続人がこれを利用するには、戸籍謄本等を用意すれば足り、それほど困難なものでないであろう。
 ところが、遺贈における受遺者がこれを利用するには、極めてハードルが高いと言わざるを得ない、というのが今回の登記事件の受託とその処理を通じて本職が痛切に感じたことである。
 今回は、受遺者が、遺贈者から遺贈を受けたこと、当時の状況や遺言作成に至る経緯等をはっきり記憶していたこと、不完全なものとはいえ遺贈する旨の記載のある自筆証書遺言が手元にあったこと、資格者代理人が手続を代理したこと等の事情が幸いした。これらの事情により、公正証書遺言の存在が明らかとなり、その謄本の交付を受けて受遺者の希望どおりの遺贈を原因とする所有権移転登記を申請し、土地の名義を受遺者名義にすることができた。
 しかし、例えば、遺贈を受けた者が親族以外の第三者であって、遺贈された事実のみは遺言者から知らされていたとしても、遺言作成当時の状況や遺言作成に至る経緯等を詳しく知らない場合などは、受遺者が自らが受遺者であることを証明できる資料を用意したり、公証人に対し、自らが受遺者(利害関係人)である旨の説明をすることが相当に困難であろうと憂慮される。遺言も故人の法律的な最終の意思表示であり、個人情報保護が強く求められる現在にあっては、その内容をみだりに開示できないことはいうまでもない。だが、多少なりとも受遺者である可能性がある者については、せめて、遺言書の有無やその者が受遺者であるか否か程度の情報の開示を可能にするなど、「遺言検索システム」の簡易・柔軟な運用を切に願うしだいである。
 法務局による自筆証書遺言の保管制度(遺言書保管法)が立法化、公布され、施行日(二〇二〇年七月一〇日)を待っている今日、特にその願いを強くしているのである。

(司法書士)

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