一般2019年05月10日 弁護士と委員会活動(法苑187号) 法苑 執筆者:樅木良一
一 はじめに
弁護士は、弁護士会に所属し、強制加入となっている。その弁護士会には、各都道府県の単位会で異なるが委員会というものがあり、活発な活動をしていることは、この冊子の読者であれば、ご存知の方も多いと思う。
私自身はと言えば、愛知県弁護士会において、広報委員会、隣接士業に関する特別委員会及び非弁護士活動対策委員会等に所属している。
広報委員会は、その名のとおり、広報を担当する委員会であり、隣接士業に関する特別委員会は、弁護士と他士業との協働や業際の問題を担当し、非弁護士活動対策委員会は、無資格者や他士業の非弁行為の調査・取り締まりを担当する委員会である。
今回は、所属している委員会の活動のうち、非弁行為に関する事項を中心に紹介したい。
二 非弁行為について
(1) 非弁行為とは
弁護士は、業務範囲が広いことから、その業務を行う上で、他士業との連携や協働は欠かすことができないが、弁護士しかできない業務があり、それら業務を弁護士資格がないものが行うことは禁止されている。
弁護士の業務については、弁護士法三条において、「弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。」と規定されている。
そして、同法七二条において「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」とされ、その業務は、弁護士の独占となっている。
もっとも、同条では「ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」ともされ、他の法律の別段の定めの代表例は、平成一四年改正の司法書士法で認められた司法書士の簡裁代理権である。
弁護士法七二条違反の行為を非弁行為といい、弁護士会では、非弁行為者に対して、調査したり、時には刑事告訴を行ったりするなどの対応をしている。
(2) 弁護士法七二条の趣旨とは
他士業との関係でこの七二条を持ち出すと、弁護士が自分の業務を守ろうとしているなどという印象を受ける人がいるが、それは法の趣旨とは異なる。
最高裁の昭和四六年七月一四日大法廷判決は、弁護士法七二条の制定趣旨について、「弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、ひろく法律事務を行なうことをその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、なんらの規律にも服しない者が、みずからの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益をそこね、法律生活の公正かつ円滑ないとなみを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、同条は、かかる行為を禁圧するために設けられたものと考えられる」と述べている。
つまり、弁護士法七二条は、国民の法律生活の面を考慮して、法律秩序全般の維持確立といういわゆる公益的な規定であって、弁護士制度の維持確立が本条の目的ではない。
弁護士法七二条の話になると、弁護士保護というイメージを持っている方が意外と多いように感じるが、そうではなく市民のための公益的な問題なのだ。
実際、刑事告訴まで行う案件の場合には、非弁行為者に依頼したことにより、十分な法的知識に基づくアドバイスが受けられなかったり、多額の報酬を請求されたりと、依頼者である一般市民に損害が生じていることが多い。
(3) 業際が判然としない場合も・・・
このような公益的な見地から弁護士会では、非弁行為の調査を行っており、最近では、非弁の疑いがあるとして、弁護士会には多くの情報が提供されている。
ただ、非弁の疑いがある行為として、弁護士会に情報提供されるものであっても弁護士法七二条で禁止している行為と他士業で認められている業務との境界が判然としない場合もあり、それが非弁行為なのか否かが裁判所の判断に委ねられる場合もある。
具体的に近年では、行政書士が、交通事故に関して、後遺症認定の請求等を行ったことによる報酬等の支払を求めた事案において、将来法的紛議が発生することが予測される状況において行政書士が行った整形外科医宛の上申書や保険会社宛の保険金請求に関する書類作成等は、いずれもそもそも行政書士法一条の二第一項にいう「権利義務又は事実証明に関する書類」に当たらず、弁護士法七二条により禁止される一般の法律事件に関する法律事務に当たるとされた事例(大阪高裁平成二六年六月一二日判決)等がある。
(4) 非弁行為の効果
また、非弁行為がされた場合、その訴訟活動は無効であり、本人の追認があっても有効とはならないと判断している裁判例(札幌高裁昭和四〇年三月四日判決、富山地裁平成二五年九月一〇日判決等)もあり、市民の法律生活への影響は大きい。決等)もあり、市民の法律生活への影響は大きい。
三 非弁行為に対する広報活動
(1) 非弁行為の一つの要因
弁護士会は、非弁行為に対し、非弁行為をなくすために調査したり、時には刑事告発を行ったりするなどの対応をしてきているものの、個人的には、それだけでは、不十分だと思う。
非弁行為を行うのは、無資格者や他の資格業であるが、当然、その人たちに依頼する被害者である市民が存在する。
このような市民の存在に目を向ける必要があるのではないか。
弁護士法七二条及びそれを違反した際の刑事罰を規定する同法七七条は、非弁行為を行った者を刑罰の対象としているが、依頼した市民については、刑罰の対象とはしていない。
このことから、依頼することが犯罪であるという広報ではなく、能力が担保される資格についてさらに知ってもらい、理解してもらうことが必要だと思ってきた。
(2) 広報活動
私は、最初にも述べたように愛知県弁護士会で広報委員も兼務しているので、愛知県弁護士会の広報で非弁行為に対する広報はできないかと考えた。
弁護士会では、意外と市民には知られていないかもしれないが、現在、非弁行為に対する広報以外に関しては、様々な広報活動を行っている。具体的に私が所属している愛知県弁護士会では、憲法週間や法の日週間において毎年記念行事を開催したり、ラジオや新聞等において法律相談センターの広報や行事告知をしたりするなどしている。
ただ、市民に対して非弁行為に対する広報を行うといっても、最初でも触れたように非弁や業際問題というのは、弁護士の制度確保、業務確保とみられがちであって、現段階で市民が知りたい情報とは到底言えないものである。この点でも広報を抽象的に行っても非弁行為について一般の市民が興味を持つことは、あまり期待できない。
他方で、既に弁護士会で行っている行事の際に参加者に対し、広報を行うことが考えられるが、何かしら弁護士が開催するシンポジウムに参加する市民の方々は、そのシンポジウムの内容等に興味を持っている方々となる。
当然にそのような市民に広報を行う一方で、ぜひとも広報したい対象は、そもそも弁護士の活動に興味がない、いままで弁護士と関与したことがないという市民である。
そこで、他の弁護士会の広報委員からそれぞれの会の広報活動について意見交換をするなどした結果、他の団体の行事に参加して、そこに来場する市民への広報を検討することになり、どのように広報を行うべきか、広報委員会内で協議をしていった。
その協議を経て、愛知県弁護士会では、昨年からだが、プロバスケットボール(通称Bリーグ)の名古屋で開催される試合にブースを出し、非弁行為や業際問題についての問題を出し、回答していただいた方にグッズをプレゼントする活動を行っている。
一回の試合だけでも一、〇〇〇名を超える市民の方から回答があり、十分な手ごたえは感じている。業際問題に関するアンケートに回答してもらうことにより、少しでも市民の方々に業際問題を認識してもらい、依頼する際に意識してもらえるようになればと思っている。
四 今後
最近、弁護士会内でも非弁に対する問題意識は高まっており、今年開催される中部弁護士会連合会のシンポジウムは、初めて非弁をテーマに行うことが決定している。
弁護士会による調査等だけではなく、市民に対する広報活動を通じて、少しでも非弁行為による市民の被害が少なくなることを願っている。
(弁護士)
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