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一般2014年09月04日 仕事帰りの居酒屋で思う。(健康が一番の財産)(法苑173号) 法苑 執筆者:松岡力雄

 今年で四二才となった自分は独身貴族だ。生活の基本である「食」については、ひたすら外食だ。家に帰って自炊も試みるが、結局は続かず、冷蔵庫の中のものを捨ててしまい「もったいない」とストレスが溜まる。地元のいきつけの居酒屋では、三〇代の気立てのいい女将さんが、ボトル棚からキンミヤを取り出し、カットレモンを添えて幸せホッピーを作ってくれる。「お疲れ様でした」の笑顔に照れながら、ジョッキを一気に飲み干す。日々のハードな仕事から解放される幸せな瞬間だ。このために生きていると言っていいだろう。しかし、幸せの瞬間を重ねるたびに、肝機能低下の心配と下っ腹の膨らみによる「メタボストレス」が襲ってくる。このままじゃ更に健康と結婚が遠のくのではないかと、壁のメニューでは、野菜サラダ、冷奴、山芋の千切りなどを注文している。夜は炭水化物をできるだけとらないよう、しめの焼うどんやおにぎりは我慢している。とある雨帰りの日、七二才の現役タクシードライバーの方に、その年まで現役を張れる健康の秘訣を尋ねてみた。「暴飲・暴食」さえしなければ長生きできるとのこと。むかし若いころウイスキーで肝臓を壊してからというもの、食生活と人生をその時に見直したという。

 今年三月に、田舎の函館で、タクシードライバーを定年退職した六八才の父親(単身)が倒れた。いつも通う温泉銭湯の湯船の中で低血圧になって意識を失い浴槽内で窒息した。周りのお客さんに助けられたものの、「低酸素脳症」となった。あと数分助けられるのが遅ければそのまま死亡していたという。至急、羽田から飛び、函館の病院に駆け付けた。担当の脳外科の先生の話を聞くと、失明し体が殆ど利かなくなっているという。今後、寝たきりになる可能性が高く、日常生活の復帰は厳しいと言われた。病室のベットで目を閉じている父親の顔をタオルで拭いた。照れ臭かった。故郷離れ二三年、こんな顔をしていたんだなと、ハゲ上がった頭から拭きはじめた。小さいころは、銭湯でゴシゴシと体をこすられたし、夏はキャンプ、冬はスキーなど、とても遊んでくれた。アゴあたりを拭き終わると、仏さんのような安らかな顔になってしまった。涙がこみ上げトイレに駆け込んだ。トイレの鏡の前で、「よし!埼玉に連れて戻ろう!」と決意した。

 父親を函館の病院に残し、仕事の合間、朝霞市周辺のリハビリ病院やリハビリ付き介護施設をあたった。父親の診断書を送ってもらい、函館の病院と何度も連絡を取り合った。函館市職員による介護認定審査の結果、介護区分では最も重い要介護5と認定された。寝たきり状態で、日常生活のすべてに介助を要するという。函館の脳外科の医療担当の話によると、目が見えないのが特に重視されたのではないかという。全介助が必要であり、糖尿病やパーキンソン病も抱えていることから病状管理が難しく、引受先の病院がなかなか見つからないまま二か月が過ぎた。とりあえず函館の脳外科から紹介された函館市内のリハビリ病院に移した。今もなお、こちらの朝霞市、または周辺市の関連リハビリ病院や施設をあたっている。

 半年ほど前から山登りを始めた。メタボ脱却と自然の素晴らしい空気と緑に触れ、精神バランスを整え、体力を錬成し、自らの力を湧き上がらせるためだ。仕事、借金、結婚、親の介護。これからも人生の山をいくつも乗り越えなければならない。
 高尾山では、父親と同じくらいの年配者の方がぐんぐんと山を登っている。本当にすごいなと思う。おばあちゃん軍団のパワーもすごい!「年金が下がったわね!」と、ぶつくさ言いながらも、ぐんぐんとおしゃれな恰好で登っていく。そしてかすか先には富士山が見えた。いつか登ってみたいと思う。ザックから取り出した山の上のおにぎりをほおばった。最高にうまい!居酒屋の晩酌では我慢しているが、山の上では免除される。素晴らしい青空と景色の中「なんで、もっと早く山登りの素晴らしさに気が付かなかったのか。親父と登りたかった。」と後悔の念に駆られながら、頭の中でこれからのことを整理し、ひたすら山歩きをする。太陽と青空と緑と汗が自分を勇気づけてくれる。

 知り合いの社長さんのツテで、隣の市の病院の院長さんと面談した。なんとか父親を受けていただけないかと懇願した。同病院の系列で特養老人ホームを経営しているそうだ。まずは、リハビリ病院でしっかりリハビリをするよう勧められた。リハビリの効果はやれば必ず現れるという。医療施設と介護施設の違いの説明を受けたが、難解で非常に分かりづらいものだった。医療保険と介護保険で取扱いや受け入れ施設も違うという。私の仕事で言えば、一般廃棄物と産業廃棄物の違いで許可手続きが違うというのと同じようなものだ。一番の心配ごとは、父親のこれからの医療費にどれくらいかかるのか。父親の月一二万円の年金で足りるのか。調べなくてはならないことは山ほどある。院長さんは父親の一つ年上で六九才だった。「あなたはまだ子供がいないのか」と聞かれ、「はい」と答えた。院長先生には、一人娘にお孫さんが生まれたらしく、孫は本当に可愛いという。「しかし、あなたのお父さんは、まだ六八才の若さなのに、こんなことになってしまい可哀そうだね。あなた自身が後悔しないよう、できるだけのことをしてあげなさい。診断書を見ると、あなたのお父さんは目が見えないし、自分で食べ物を食べることもできない。介護現場の人たちも少ない人数で沢山のお年寄りを見ているので大変です。時間に追われ、朝昼晩三食の食事を口に入れる際、介護士さんの口に運ぶスプーンが早まり、むせる場合もある。お父さんは、唯一の楽しみであるごはんをゆっくり食べることができない場合もある。あなたの時間があるときは、病院にきて食べさせてあげなさい。栄養士さんに相談しながら、お父さんの好きな食べ物を買って与えてもいい。でも、あなたは独身でよかったね。あなたの判断一つで、お父さんのことを決められる。」

 今度は共同著者の師匠(八五才)が緊急入院した。心臓が悪く、ペースメーカーの取り付け手術だという。何も八五才からメスを入れなくてもと止めたが、国立大の心臓専門医から「手術は安全だし、長生きしたければ、つけた方がいいですよ」の一言で決断したという。今の技術はすごい。ペースメーカーの機械を左の胸部分に埋め込み、ペースメーカーから続いている二本の細い管を、心臓に続く静脈に通すという。脈拍数の変化に応じて、血流を調整することにより、ずいぶんと心臓にかかる負担を軽減できるという。
 師匠の手術前、仕事終わりから病院に駆け付けた。子供のいない師匠から「何かあったら次のように頼む」と、葬式など遺言を託された。そしてこの「法苑」の原稿執筆も急きょ託された。ずいぶん前からお願いされていたのにもかかわらず、締切まであと二日間しかないという。新日本法規出版の担当者に相談したら、共同著者の私が書くことになった。相変わらず無頓着な師匠に腹を立てる気持ちと、手術に向け心配な気持ちが重なる中、深夜・早朝とこの原稿書きに向かっている。雨の高尾山に上りながら、頭で書くことを整理した。

 夕刻、高尾山から戻り、いつもの居酒屋で至福の一杯をやってきた。となりに座った地元常連のお客さんは自動車整備工の人だった。土日は臨時収入を得るため、地元のタクシー会社でアルバイトをしているという。「もし病院が見つかり、お父さんをこちらに連れてこられたら、介護タクシーなど紹介できるので、気軽に連絡してください」と励ましてくれた。行きつけの居酒屋カウンターで、いろんな地元人脈とつながっていく。ありがたい限りである。
 そんな中、携帯に師匠から着信が入っていた。術後の安否を確認するため、私の携帯に着信(ワンギリ)をしてくださいと頼んでいた。着信があり、ホッとした瞬間である。そして、急きょ二日で書くことになった、この「法苑」原稿が仕上がって、併せてホッとしている。これから師匠が入院している和光市の病院にお見舞いに向かうことにした。

 最後に、仕事帰りの居酒屋で改めて思う。「健康が一番の財産である。」改めて、自分に言い聞かせた。「週に二回はノン・アルコールビールか、炭酸水に切り替えよう。」日々雑感、走り書きのエッセイをお許し願いたい。

(NPO法人全国廃棄物教育センター連合会 理事長)

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