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一般2021年01月08日 産業医…?(法苑192号) 法苑 執筆者:高尾総司

1 肩書はなに
 自分の肩書は、何なのか。いつも考えてしまう。素直に言えば、「岡山大学・講師」であろう。常勤職員なのだから、疑う余地はないはずだ。しかし、今だから言えることだが、大学勤めは短期のつもりだった。いろいろあって、正確に言えば起業するタイミングを逸して、まもなく勤続二〇年を迎えようとしている。しかし、大学講師は自分のアイデンティティとしてはしっくりきていないままだ。
 一応、医学部を卒業し、二年間の臨床研修は行った。でも、以降いわゆる診療には従事しておらず、もはや「医師」とはいい難い。長男がけがをしたときに、慌てて携帯の電話帳から外科医を探してみたが、出てきたのは弁護士ばかりで、妻と次男の信頼をすっかり失墜させた。医師免許はあるので、ペーパードクターであることに間違いはないが、あまり格好がよくない。
 残ったのが、「産業医」である。これで決まりかといえば、ことはそう簡単ではない。だいたい、そもそもなぜ、医師としては明らかに傍流というほかない産業医が肩書の候補となるような、そんなことになったのか。。。

2 医学部入学から産業医にたどりつくまで
 父は歯科医であるから、医師になるべく周囲からの有形無形のプレッシャーがあったというようなことはない。その証左に、岡山大学医学部(前期日程)と東京医科歯科大学歯学部(B日程)を受験した。さらには、岡大合格発表の現場では、柔道部か空手部の先輩方に胴上げしてもらい、新聞部のインタビューには、「精神科医になりたい」と回答していた。当時の私のイメージでいえば、「ちょっと悩める方にカウンセリングをして、また元気になってもらう」といった程度の曖昧なモチベーションだったけれど。高校生の頃は、渡辺淳一をはじめ、小説には比較的多く触れていたので、何かの内容の影響なのかもしれない。少々脱線にはなるが、いまだ「小説家」の肩書はどうにか得られないものかとは思っている。
 さて、学部五・六年次には病院での実習がある。もちろん、精神科もあった。そこで目にした現実からは、入学時に想像していたような方向性は、どうやら精神科の範疇とは少し異なるようだと気付かされた。卒業して、現在所属する講座(衛生学)の大学院に進んだ。選択した理由は「何をやってもよさそうだから」、つまり全然将来のことは決まっていなかった(決めていなかった)のだと今になって思う。何より、診療科を決めて医師になれば、かなりわかりやすい肩書が得られたはずであった。近年細分化が著しく、それゆえの難解さはあるが、だとしても心臓血管外科医といえば、だいたい何をしている人か想像はつく。
 なんでもできるの裏返しは、何をしていいかわからない、である。あまりに自由すぎる講座に、急に不安を感じて、二つ上の先輩に相談しながら「日本医師会認定産業医」「日本医師会健康スポーツ医」「第二種作業環境測定士」「労働衛生コンサルタント(保健衛生)」「衛生工学衛生管理者」など、手あたり次第に資格取得に励んだ。また、臨床以外のアルバイトでは定番ともいえる健康診断の診察医もやった。そこで急展開、なぜか健診機関の危機に際して、健診営業に限りなく近いことをやることになった。
 ここで、やっと「産業医」の登場である。想像できるかもしれないが、健診は安けりゃドコでも良いという人事総務担当者も少なからずいる。付加価値としての産業医を自分で担当するということだ。今思えば、自分の身を切り売りしているようなものだったかもしれないが、まあまあうまくいった。結局今に至るまで、三〇社ほどの産業医を経験することになった。

3 そもそも普通の産業医とは
 いったいどう説明するのがよいのだろう。自分で自分に無茶ぶりという感じになってしまった。というのも、労働安全衛生法に産業医の資格要件などは規定されるものの、実態としての産業医の活動には、相当に幅がある。誤解を恐れず、率直に言うならば、現状ではそれぞれの活動スタイルは十人十色であり、標準化には程遠い。しかるに、「普通の産業医とは」の説明は大いなる難題なのである。
 しかし、これでコケてしまっては話が続かないので、私なりの分類を紹介したい。産業医が行う職場の健康管理活動には、二種類あると一五年ほど前から提唱してきた。「医療的健康管理」と「業務的健康管理」である。企業において通常行われている、業務管理や労務管理の考え方や手法に基づく健康管理を業務的健康管理と定義している。対極には、病院医療をモデルとした医療的健康管理がある。どちらも労働者の健康向上と、会社の生産性向上を目的としている点は変わりないが、アプローチ方法は大きく異なる。
 医療的な考え方に基づけば、従業員のことを第一に考える。仮にある従業員の支援のために、同僚に追加の労力が必要となり、結果として部署や会社全体の生産性が下がるとしても、当該従業員のためには仕方ないと考える。また、職場でも医療的な対応を行う可能性もある。
 一方で、業務的な考え方に基づけば、かなり対応は変わってくる。仮に疾病を抱えながら出社したいという希望があっても、あくまで職場のルールの範囲内で、できるかどうかを判断する。またそもそも完全な労務提供が得られない場合には、出社を認める必要もない。またこれらの判断は、あくまで労務管理でありビジネス的な観点からの判断になる。
 さて長くなったが、言いたかったことは、産業医はおおまかに三種に分類できる。医療的健康管理主体タイプ、ハイブリッドタイプ、業務的管理主体タイプ、である。医療タイプは原稿執筆現在放送されているテレビドラマの主人公、要するに、企業の診療所の医師をイメージしてもらえばよい。やっていることは臨床医と大差ない。一方で、近年ニーズに比較的マッチしているのが、ハイブリッドタイプであろう。場面に応じて、ビジネスの事情にも理解を示しつつ、社員には医学・医療でうまく説明をしてくれる。そして最後が、私の属する業務タイプだが、医療色ゼロということになると、人事総務や、はたまた弁護士、社会保険労務士と何が違うのかという説明に窮する。

4 なんの話だったか?
 まてまて、いったい何の話からこうなった。そうだ、新日本法規出版から「疾病を抱える社員の労務管理アドバイス」を、馬場三紀子社労士・大嶽達哉弁護士と共著で出版し、そのご縁で、本稿の執筆機会をいただいたのであった。実は同時期に別の出版社からも森悠太社労士・前園健司弁護士との共著も出版した。一言で振り返れば、安西愈弁護士との出会いが、私の産業医としての方向性を大きく決定づけたから、業務タイプを突き進むことになったのだった。
 確かに「安全配慮義務」には関心をもち、多少は勉強もしていた。記憶が確かならば、労働衛生コンサルタント試験でも、「事業者に、どのようにあなたの提案する健康対策を実施させるか」との問いに対して、プラス面では経営に資する説明を(つまり健康経営ではないか!)、マイナス面としては特に安全配慮義務に力点をおき、リスクマネジメントの観点からの回答をした。
 その後、ある会社の産業医になったところ、たまたま安西弁護士が顧問であることが判明し、人事担当者に懇願して引き合わせてもらった。その際、安西弁護士が「うちの若い弁護士と仲良くするといい」と言ってくださり、梅木佳則弁護士、松原健一弁護士、そして山梨で開業した岡村光男弁護士とのご縁は今に続く。

5 偶然は続く
 鳥飼総合法律事務所の小島健一弁護士との出会いも、なかなかの奇跡である。ヘッジファンドのような(詳細はよく理解できていないが)仕事をしている中学高校の同級生が、久しぶりに再会して会食をした際に、以前にM&Aで一緒したという小島弁護士を紹介してくれた。さすれば、小島弁護士は拙著「健康管理は社員自身にやらせなさい(保健文化社)」を読んで、私を知ってくださっていたというではないか。
 そうそう、小説家にはなれていないが、やはり書籍を出版するということは、こうした出会いにもつながるものである。あるとき地元の鮨屋で妻と食事をしていたら、隣のご夫婦と妙に意気投合した。鮨に合わせる日本酒の好みが似ていたから、悪い人ではないはずと勝手に判断した。そして、(滅多にそんなことはしないが)二軒目に想定していた、なじみの日本酒バー(蕎麦屋)に誘ったら、あっさりついてこられた(先方も結構ウカウカしている)。話をしていたら、奥様が企業の人事担当で、同書を読んでいたというではないか。著者紹介欄に写真が載っていたりするわけではないので、文章のトーンから、なぜか「眼光鋭い白髪の老人」を想像されていたとのことであったが、このイメージにはあまり一致しない(髪がすっかり白くなった点は今ではあてはまるようになったが)。

6 社労士にもロックオン
 こうして、、、おっと、社労士の先生方との出会いについては、すっかり割愛してしまった。こちらはまったく普通というか徐々に紹介を通じて人脈を拡げていった。業務タイプの産業医の活動は、弁護士や社労士が臨床医との連携で担うこともできる。もっとも、弁護士にとっても広く言えば予防法務の一環といえるかもしれないが、社労士の方が適任ではないかと考えて、研修会等の機会を通じて、実現に向けて仲間探しを進めてきた。もちろん、もっと単純に産業医の後進を育成することも考えたが、どうしても医師としてのアイデンティティを持ちにくい業務タイプの産業医は成り手が多くはいない。
 そこで、現時点では、社労士を主体に産業医と弁護士が後方支援するイメージで、何社か試行的にメンタル対応の人事サポートを行うようになった。実は社労士を担い手とすることには、産業医学上、大いなる課題解決につながる期待が持てる。ご存じかもしれないが、労働安全衛生法上の産業医の選任義務は五〇人以上の企業が対象であり、つまり五〇人未満の企業の健康管理は、いってみれば、ほぼ手付かず。よく言えばブルーオーシャンである。そして社労士の先生方の顧問先はこうした小規模の企業も少なくない(むしろ多い)。そうなれば、あとは仕組みさえうまく構築できれば、ブレークスルーが訪れるのではないか。

7 Centro Saluteの紹介
 とはいえ、何より難しいのは、「今までないもの」を企業に採用してもらうことである。そこで、少しでもこうしたコラボのイメージを具体的につかんでもらうことができるよう、有料のオンラインサロン “Centro Salute” (月額五〇〇円)において、前述の前園弁護士、森社労士と三人で月二回の映像コンテンツ配信を始めた。ちなみに、私の愛車がアルファロメオだからという安直な理由から、名称はイタリア語で検討した。あまり意味にはこだわらず、響きの良さで(イタリアらしく)決めた。日本語に訳すならば、医療的な意味合いの健康ひろばではなくて、「(業務的)健康(管理)のメッカ」、というところである(断じて保健所ではないが、一応そういう意味もあるらしい)。興味をもった方、ぜひ、ご参加ください!
https://community.camp-fire.jp/projects/view/307210

(産業医)

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