一般2023年09月15日 「継続は力、一生勉強」 という言葉は、私の宝である(法苑200号) 法苑 執筆者:寺井賢二

「継続は力、一生勉強」という言葉は、私が幼い頃から、父から繰り返し聞かされた言葉である。当時は、言葉の意味もわからなかった。ただ、その言葉だけは、体に染みこんでいた。そして、大人になってからは、何事にも継続することが苦にならない自分がそこにいた。「継続は力、一生勉強」という言葉が、日常生活に溶け込み、自然なこととなっていたのである。
幼いときに繰り返し聞かされた「言葉の力」の影響力がこれ程あるとは・・・。今更ながら驚いている。
私がマンションの中庭の雑草を取り始めてから、もう一六年になる。雑草取りを始めた理由は、読み進めていただければわかると思う。
居住しているマンションの中庭は広く、樹木も多い。銀杏の木(市の保存樹もある。)が一二本ある。また、欅(けやき)の木が二本あり、このうち、大きい方の欅(けやき)に、昨年、「ツミ」という鷹が巣を作り、子育てをし、三羽の子が巣立っていった。つまり、このマンションは自然に恵まれているのである。
住人となって、最初にこのマンションの中庭を見たときに、これは、雑草との戦いになると思った。雑草は完全に除去することは難しいが、増やさないことは出来る。雑草を取りさえすればいいだけだ。取らなければ、空き地は雑草畑になる。そこで、雑草を取る決心をし、取る時分をメールボックスに新聞(朝刊と夕刊)を取りに行くときとした。雑草を取る道具は、最初は考えていなかったので、素手で取っていたが、途中でスプーンを加工して道具とした。
あるとき、このマンションに出入りする庭師と雑草の話をしたときに、スズメノカタビラ(雀の帷子)の話がでた。ゴルフ場ではグリーンに生えているスズメノカタビラは厄介ものであり、何十人かの人手を入れて、手作業で除去しているという話である。そこで、用具は何を使っているかを聞いたところ、先が割れている用具とのことである。そこで閃いたのは、フォークである。早速、フォークを使ってみると作業効率がよいことがわかった。
ただ、このマンションに入居している人に雑草取りをお願いすることは無理である。多くの人は、雑草を取らなくてよいということでこのマンションを買っている。だから、私と同じ様に雑草を取ってもらうということはできないので、私一人でやることにした。私が雑草を取っている姿を見かける人は、「ボランティアで、雑草を取っていただいてありがとうございます。」と声をかけてくれる。私は、ボランティアで雑草を取っているのではない、と心で思うが口に出さない。どう思われても、私には、ある目的を持って雑草を取っているのだから、他の人からどう思われてもいいのである。
私がこのマンションに住んだのは、六三歳のときである。その頃、気になることがあった。日常生活の中で、感覚がずれていると感じるときがあった。体調がどうのこうのということではないが、何か違和感があった。それが何なのかわからない。集中力が衰えたのではないかと思った。それは、私が生まれる以前から持っている本能が衰えてきているのではないかと思えた。生まれる以前から持っている本能(以下「狩猟本能」という。)が衰えているとするならば、それが原因であれば、それを目覚めさせたら元の状態に復活するのではないのかと思えた。
それには、どういう訓練をしたらよいのかを考えていたときに、ふと思いついたことがあった。それは、子供が這い這いをしたときに最初に行う動作のことである。子供が這い這いをしたとき、目の前にある物を見ると「取って口に運ぶ」という動作をする。それは、元々の狩猟本能ではないのか。この動作を雑草取りへと応用出来ないかと思った。
そこで、雑草取りをするときに、雑草を獲物と考えることにしたらどうかと思った。そして、中庭全体を猟場とすることにした。
狩りをするに当たって、ルールを決める必要があった。獲物を取るときに、①取る雑草を捜す、②そして取る雑草を確認する、③利き手以外の手(私の場合は左手。通常使わない手を動かすことがよいと思った。)で、ゆっくりと、根ごと引き抜く。このように、私が雑草を取る目的は狩猟本能を目覚めさせることが目的であって、それは、誰のためでもなく、自分自身のためであって、狩猟本能を訓練するためのものである。雑草取りをすることで、狩猟本能を目覚めさせることの要素としては、獲物(雑草)を捜すこと。獲物(雑草)を取りながらいろいろな事を考える(ようになった)ことである。①腰の下ろし方、②立ち上がり方、③雑草の抜く時期等いろいろ考えて工夫したのである。①の腰の下ろし方は、周りを見ながらゆっくりと下ろすこととし、②の立ち上がり方は、ゆっくりと周りを見ながら立ち上がり、必ず腰を伸ばすこととした。③の雑草の抜く時期は、雨上がり後(雨で雑草が成長する。)や雑草が花をつける前とした。特にカタバミは、春、夏、秋に花をつけ、実が破裂すると、一メートル四方に飛び散る。種は粘着性があるので、靴等に付着して拡散する。根絶が難しい雑草で、戦国時代の武将の家紋になっている。花は可愛いが、放置するとカタバミ畑になる。カタバミは、獲物として優先して取ることにしている。
雑草取りを始めた当初は雑草が少なかったが、年々増加してくる。仲間が欲しくなる。そこで、シロツメ草を、雑草と戦う仲間(戦友)にすることにした。まず、シロツメ草を育てる場所の確保である。古墳公園への入り口近くの雑草畑を開墾して、そこに植えることにした。カタバミが根を張っていて開墾は大変であったが何とか出来た。
次に、シロツメ草の苗の確保である。探して見ると、芝生のところや通路の隙間に生えていることがわかった。それを上手く引き抜いて育てることにした。シロツメ草を見つけるのが楽しくなった。育てたシロツメ草は隣の雑草畑を開墾して移し換えをした。しかし、育てるとなると難しいことがわかった。根がつかないで、いつの間にか消えるのである。前に雑草のことで話をした庭師に聞いたが、何故消えてしまうかは、わからないという。ただ、シロツメ草は成長が遅いので、雑草に負けてしまうとの話があった。そこで、雑草は徹底的に取ることとした。その中で、シロツメ草を育てる環境を良くするために、硬い土をやわらかくした。欅(けやき)と桜の木がある場所の空き地なので、日当たりがそれほど良くない。そんな中、硬い土をやわらかくすることで、シロツメ草の根付きが少し良くなった。なお、消えたと思ったシロツメ草の中でも生き残りがいる。この生き残りのシロツメ草は生命力が強い。つまり、弱いものは消えて、強いものが生き残るということだ。自然界の掟そのものがシロツメ草にもあるということを知った。
シロツメ草を育て始めてから八年ほどになる。ようやく空き地がシロツメ草畑のようになってきた。
あるとき、小さい女の子が三人遊びに来て、「お花取っていい」と聞かれた。取っていいよと言って花の取り方を教えた。取った花を見て、「きれい」と言って喜んでいた。そのとき、シロツメ草を育てていてよかった、とつくづく思った。一般的に、花は取っていけないといわれている。
シロツメ草の世話も、この六月初めに一段落したので、雑草取りを中庭全体に広げることにした。中庭の通路の両側の雑草取りから始めた。

写真:筆者(右手にはフォーク)とシロツメ草畑
雑草取りをして一六年になって、自分自身の体の感覚にどのような変化があったのかを考えてみた。そうすると、①今まで見えなかったものが見えるようになった、②今まで感じられなかったことが感じられるようになった、③今まで気が付かなかったことを気が付くようになった、④目の前の獲物(雑草)をとることに専念する。そのことに起因するのか、物事を後回しにすることがなくなった。ライオンが「獲物を取ること」を面倒くさいと言うと、ライオンは餓死する。人間が「獲物を取ること」を面倒くさいと言うと、脳が餓死する。そう思えた。だから、私は、「面倒くさい」という言葉を捨てることにした。
年と共に、狩猟本能が衰える。これは仕方がないことだ。仕方ないと諦めるか、それとも狩猟本能を目覚めさせるか。いずれかよりないと思う。ただ、私は、雑草取りをすることができる環境下にあった。そして、雑草取りをしても誰にも文句を言われないし、逆に感謝される。そして、一番よいのは、雑草は無尽蔵にあることだ。
私の元々の考え方の中には、①惚けないためにどうするか、②寝たきりにならないためにどうするか、ということが心の片隅にあった。①については狩猟本能を目覚めさせることを思いついた。②については足腰を鍛えるために、朝と夕方はエレベーターを使わないで階段(一四階)を降りて登ることにした。それと、歩くときは爪先を上げて、踵から下ろすことにしている。アキレス腱を伸ばすためである。
私は、目的意識を持って物事を決め、実行することにしている。継続は力、一生勉強である。
(社会労働法規研究会代表 社会保険労務士)
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